実家を売却したくても簡単にはできない

帰る人のいない実家なら、お金をかけて維持するよりさっさと売却してしまったほうがいい。そう忠告してくれる人が多かったのだけれど、ここでそれがほぼ不可能だとわかった。なぜなら、認知症という診断のついた母の土地を、家族といえど私が勝手に売ることはできないからだ。

私が実家を売却するには、成年後見制度の1つである「法定後見制度」を利用するしかないようだ。法定後見制度とは、本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された人が本人を法律的に支援する制度のこと。私ではなく第三者である弁護士、司法書士、社会福祉士などが選任される可能性も高いと聞く。

その場合、私が実家の財産を管理することは一切できなくなり、法定後見人が許可しなければ母の預金を触ることも実家を売却することもできないとわかった。しかも母が亡くなるまで毎月、後見人には月に数万円の報酬が発生するという。

賃貸や民泊にすると多額の税金がのしかかる

実家を誰かに貸したりAirbnb(エアビーアンドビー)などを使って民泊に利用したりしてはどうかという案を出してくれる友人もいた。築45年といえど、軽量鉄骨気泡コンクリート造りの実家はまだ丈夫そうに見える。さすがに水回りの劣化は激しいけれど、一部をリフォームすれば賃貸に出したり民泊に利用したりできそうに思えた。

しかし調べるうち、通称「空き家特例」という相続税に関する特例があることを知った。建物の建築年や特例そのものの期限はあるけれど、親が亡くなったときに家屋や敷地を売却する際、譲渡所得から3000万円を控除するというものだ。これを利用するとしないとでは所得税の金額にとても大きな差が出てくる。

ただしこの特例を利用するためには、その家に最後に住んでいた人が持ち主、つまり実家の場合は母でなければならないという条件がある。誰かに貸したり私が住んだり事業に使ったりしたら、払わなくてもよかったはずの多額の税金を納めることになるのだ。

……どうすりゃいいのよ。

母が存命中は、このまま実家を維持し続けるしかないのだろうか。私はひとり、頭を抱えてしまった。