【8区】
8区は10000m29分12秒33の順大・津田将希(4年)に同27分41秒68の駒大・鈴木芽吹(2年)が追いつくと、鈴木が前に出た。このまま引き離すと思われたが、津田は鈴木の背後にピタリと食らいつく。
その直前、順大・長門俊介駅伝監督は津田にこう声を飛ばした。
「(10000mの)タイムじゃないぞ、タイムじゃないからな」
津田は、鈴木のスピードが上がらないと見ると、前に出て引き離した。
津田は前回、箱根の山を登る往路5区を担った選手。8区は16km付近に「遊行寺の坂」と呼ばれる急勾配の上りが待ち構えている。15km地点で長門監督は、こう声をかけた。
「ここからは自信を持っていけるコースだからね。箱根の山に比べれば楽勝だ」
長門監督の期待に応えた津田は見事、区間賞を獲得したが、「遊行寺の坂はめちゃくちゃきつかったです」と振り返った。
8~10区の終盤区間はシード権争いが激化した。8区では國學院大がシード圏内ギリギリとなる10位を走っていた。ランナーは、最初で最後の箱根駅伝となり、卒業後は一般企業に就職する石川航平(4年)だ。
「4年間やってきたことを最後の3kmにしっかり出せ。休んだらダメだ。出られない4年生の分も最後はしっかり走ろう」
前田康弘監督の言葉が響かないわけがない。石川は区間7位と激走して、夢の箱根路を走れなかった仲間の分まで燃え尽きた。
一方、この8区で11位を走っていた法政大は、坪田智夫駅伝監督が稲毛崇斗(2年)にハッパをかけた。
「10位に入らないと、また予選会に行くんだぞ。ここで出し切らなきゃいけない。9区には主将・清家が待っている。この差を詰めて渡すんだ」
稲毛は早大に抜かれて12位に順位を落としたが、9区清家陸(4年)が早大を逆転。10位の帝京大と32秒差でタスキをつなげた。
【10区】
最終10区、法大のアンカー川上有生(3年)は前を懸命に追いかけるが、帝京大との差は縮まらない。新八ツ山橋(13.3km地点)では逆に51秒差に広げられた。15km過ぎには、坪田監督からこんな声が飛んだ。
「動いているからな、自信持っていこう。お前の練習で負けるはずがない。あと8kmしかないんだから、頼むぞ」
川上は、「俺に任せて」とでもいうように右手を軽く上げて合図を送った。
川上は田町(16.5km地点)で帝京大との差を39秒まで短縮。その後、先を行っていた東海大・吉冨裕太(4年)のペースが急落した。吉冨は20.5kmで帝京大に抜かれると、残り1kmで法大にもかわされた。東海大はずるずる順位を落とす。
「目を覚ませ!」
東海大・両角速駅伝監督は吉冨を奮い立たせるべく叫んだが、届かなかった。最終的にシード権最後の1枠は法大が確保して、3年前の王者・東海大は11位に沈んだ。
全10区間217.1kmで争われる箱根駅伝。ランナーたちを後ろから見つめて、指揮官たちは声をかけ続けてきた。その言葉に選手たちはどれだけ勇気づけられたことだろうか。ランナーと監督との“対話”には青春のカケラがたくさん詰まっている。