円安が日本経済の足を引っ張る可能性がある
米国の2021年7~9月期のGDP(国内総生産)は前期比年率で2.1%のプラス成長だった。4-6月期の6.7%成長からは鈍化したもののプラス成長を維持した。今後、オミクロン株の拡大で経済活動にどんな影響が出てくるかは未知数の部分もあるが、少なくとも年末商戦までは好調に推移している。2020年7~9月期以降、5四半期連続のプラス成長となり、GDPは実額ベースですでに新型コロナ前の水準を上回った。
一方の日本は、2020年10~12月期までの回復は順調だったが、2021年に入って景気回復が足踏みしている。1~3月期はマイナス5.1%と水面下に沈んだ後、4~6月期は1.9%のプラスに浮上したが、7~9月期は再びマイナス3%に落ち込んでいる。新型コロナ前の水準には回復していない。
ここで、経済にどの程度ブレーキをかけるのか、どの段階でアクセルに切り替えるのかを誤ると、日本経済は大きく失速することになりかねない。
さらに、円安が日本経済の足を引っ張る可能性も強まっている。
これまで日本では「円安」は経済にプラスと言われてきた。円安になれば輸出が増えて輸出産業が潤い、給与の増加につながって、それが消費の増大に結び付く、いわゆる「経済好循環」が動き出すと考えられてきた。だが、現状はそうなっておらず、むしろ円安のマイナスが目立っている。
過度のブレーキをかけ続ければ、経済回復は遠のく
円安によって輸入原料の価格が大幅に上昇しているのだ。小麦や大豆、菜種油など食料品に加え、木材や原油などの価格も上昇している。世界の経済活動の回復で、国際市況が上昇していることもあるが、円安によって日本の購買力が落ちていることも大きい。今後、輸入品価格の上昇によって、消費回復の足が引っ張られる可能性が大きい。
加えて、米国では新型コロナ対策で実施してきた金融緩和を見直し、量的緩和を縮小するテーパリングに踏み切った。また、今年は金利引き上げに動くと見られている。一方の日本が、このタイミングで経済にブレーキをかけ続ければ、とうてい金融緩和から脱却することはできなくなる。つまり、日米の実質金利差から、ドル高円安がさらに進む可能性が出てくる。
2022年は新型コロナが明けて、これまで抑制されていた消費が一気に花開くことが期待されていた。旅行業界や飲食業界だけでなく、消費全般を押し上げると見られていた。それだけに、ここへきて経済活動に過度のブレーキをかけ続ければ、その回復の芽をつむことになりかねない。どのタイミングで、ブレーキを外してアクセルに切り替えるのか。情緒ではなくエビデンスに基づいて、その判断を的確なタイミングで行うことが岸田内閣に求められる。