強いフランス路線を明確にするマクロン大統領

一方、前回の大統領選でマクロン氏に決選投票で敗れたマリーヌ・ルペン氏は、従来の過激な保守路線を現実主義的に転換したことにより、有権者の支持を失った。

その支持は反移民や反イスラームを公言してはばからないフィガロ紙の元記者、エリック・ゼムール氏に流れたが、政治的実績が皆無なこともあり彼の支持率はそこまで伸びていない。

かつてはルペン氏が、今はゼムール氏が過激な保守層の支持を集める。彼らの共通点は、反移民や反イスラームという「内向き志向」にある。

マクロン大統領もそうした民意に配慮し、来年前半に欧州連合(EU)の議長国を務めるに当たり、シェンゲン協定(検査なしで欧州内の国境を越えることを許す協定)を見直しする意向を示した。

それ以外にも、マクロン大統領は保守層に受けが良い政策の実現を強く訴えるようになっている。フランスの国策産業である原子力へのサポート強化などはその典型例だ。

就任当初のマクロン大統領は原発依存度の引き下げを主張していたが、今や脱炭素化の重要な手段として、そして重要な輸出産業として原子力を強化する方針に転じた。

そうしたマクロン大統領の姿は、フランスの伝統的な保守政治家そのものだ。国家介入主義(ディリジスム)やド・ゴール主義(ゴーリスム)にもつながる、フランスの保守層が好む伝統的な主義主張をマクロン大統領は展開する。

大統領選での勝利を見据え、保守層の有権者を取り込むための選挙戦術にマクロン大統領は打って出たのだろう。

中道右派による「大きな政府」路線に転換へ

マクロン大統領は元々、中道左派である社会党出身のフランソワ・オランド前大統領の下で政治家としての道に入った。

「新しい中道」というキャッチフレーズを掲げて硬直的なフランス経済の体質改善を図ろうとしたマクロン大統領だったが、コロナ禍という特殊な環境もあり、労働市場を中心とする構造改革は志半ばで終わってしまった。

バレリー・ペクレス氏
セザール賞授賞式でのバレリー・ペクレス氏(写真=Georges Biard/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

マクロン大統領はいわば「小さな政府」路線を歩もうとしたわけだが、結局はフランス伝統の「大きな政府」路線に歩み寄った。

ライバルに躍り出た共和党のペクレス候補は公務員の削減を公約に掲げるが、それも程度の問題にすぎず、ド・ゴール大統領以来の中道右派政権が志向する成長に重きを置いた「大きな政府」路線が踏襲されるはずだ。

特別な醜聞でも生じない限り、大統領選の決選投票はマクロン大統領とペクレス氏で行われる公算が大きい。とはいえ、どちらが勝利しようと「大きな政府」の下で経済成長を目指すという戦略が目指されることになるとみる。

具体的には、自動車や通信などの基幹産業に対する介入や老朽化が目立つインフラの更新投資などが強化される見込みだ。