なぜそのようになるのでしょうか。それは、あなたの潜在意識が今、あなたに向かって「せっかく時間と労力をかけたのに、手ぶらで帰るわけにはいかない」と叫んでいるからです。帰りの便の準備をした時点で、あなたは交渉で負けるように自分を仕向けたことになります。

パワーネゴシエーターは、ある時点までに投資した時間やお金は無視すべきだと知っています。時間とお金は、交渉が成立してもしなくてもなくなってしまうのです。常に、その時点での交渉条件を見て、「今までこの取引に注ぎ込んだ時間とお金を無視しろ。今この時点の、この取引を進めるべきなのか」と考えるのです。

意味がないと思ったら、躊躇せずに手を引くことです。多くの投資をしたからといって、自分に合わない取引を進めるよりも、投資を帳消しにした方がはるかに安上がりだからです。

交渉で優位に立てるポイント8つ

ロジャー・ドーソン、島藤真澄訳『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』(KADOKAWA)
ロジャー・ドーソン、島藤真澄訳『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』(KADOKAWA)

ドナルド・トランプが強力なネゴシエーターである理由の1つはそこにあります。彼は、意味のない取引では手を引くことを恐れません。例えば、マンハッタンのウエストサイドに「テレビジョン・シティ」を建設するために1億ドルを投じました。さらに数百万ドルを投じて、150階建ての世界最大級の高層ビルや、NBCを誘致するための壮大なテレビスタジオなどの計画を立てました。しかし、市から適切な税制上の譲歩を得ることができなかったため、プロジェクト全体を棚上げにしてしまったのです。

それと同じように、交渉でも考えなければなりません。今までの投資を忘れて、今のままでいいのかどうかを検討するのです。

《覚えておくべきキーポイント》
①譲歩の8割は、利用可能な時間の最後の2割で起こる。
②前もってすべての詳細を決めておく。「あとで考えればいいや」と放置してはいけない。
③人は、タイム・プレッシャーの中で柔軟になる。
④自分に期限があることを明かさない。
⑤相手側にも期限があることを確認してみる。
⑥双方が同じ期限に近づいている状況では、力が強い側はタイム・プレッシャーをかけることができるが、力が弱い側は避け、期限よりも十分前に交渉する必要がある。
⑦力関係は、合意に至らなかった場合、それぞれの側が持つ選択肢に直結している。
⑧受容時間とは、相手が期待通りのものが得られないことを受け入れる時間を与えることである。
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