山を登り切った後どうするか

さて、50代に入ると、キャリアの停滞感も吹っ切れ、また新たな気持ちで仕事に向かう心構えができてくる。その中にはもちろん諦めもあるだろうし、あるいは「この山しか残されていない」と消去法的に目的が決まり、眼前の山に登らざるをえなくなるケースもあるだろう。

一方で、目指し続けた山の登頂に成功する人も出てくるわけで、その後の過ごし方がいくつかの道に分かれていく。主な選択肢の一つは、登り終えた山に満足せず、一旦山を下りてもう一度同じ山に登り直すことである。20代から作品を発表し続け、大きく画風を変えながら80代まで現役であり続けた葛飾北斎をイメージしてほしい。専門領域にさらに広がりを追求し続けた生き方は、トッププロへの道そのものである。

あるいはまったく異なる2つ目の山に登るのもいいだろう。以前から興味を持ちながらもなかなか実行に移すことのできなかった異分野の仕事に、ここで挑戦してみるのだ。50代を迎えてからの新たなチャレンジに不安はあるだろうが、1つ目の山を極めたときのノウハウは方法記憶として身についているので、2つ目の山はもっと速く登れる可能性が高い。

また、制覇した山で得た財産をその後の世代に生かしてゆっくりと山を下りる道もある。自分がそのままトップランナーを続けるのではなく、その事業を支える役割を引き受けるのだ。専門分野のトレーナーになったり、業界団体に所属するなどして後進を見守る役目がそれにあたる。裾野の広い山に登った人には、こんな選択肢が魅力的に映るだろう。

もう一つはリタイア、もしくはハーフリタイアである。仕事より趣味を中心にした生活パターンにするなど、いわば湯治生活である。現在の若々しい50代には少々退屈かもしれないし、老後の蓄えなど、生活保障をクリアしていないと難しい面もあるだろうが、それが幸せな老後に結びつく人もいる。

いずれにしても、50代がキャリアプランを会社任せにしても定年まで逃げ切れたのは、一昔前の話だ。経済が上昇局面にある時代には、個々人がキャリアプランを持たなくても、会社が安泰である以上、不安要素は生じない。

しかし時代が大きく変化したいま、そのような考え方が通用しないのは、あなた自身が一番よくわかっているだろう。前時代の50代の働き方・生き方を踏襲するのではなく、あなた自身の考え方で職業人生をプランニングし、残りの人生を大いに楽しんでほしい。

(構成=石田純子 撮影=永井 浩)