SMAPの「世界に一つだけの花」は2003年の発売以降、CDシングルとして歴代1位のセールスを記録している。楽曲を提供した槇原敬之さんは、アルバム曲だけに入れる曲として、わずか1時間足らずで書き上げたという。なぜ異例のロングヒットになったのか――。

※本稿は、柴那典『平成のヒット曲』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

美しい春のブーケ
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「デモテープを聴いて、ほんとに鳥肌が立った」

「デモテープを聴いて、ほんとに鳥肌が立ったのを覚えてる。でも、あんなに世の中の方たちに受け入れてもらえるとは思わなかった」

木村拓哉は「世界に一つだけの花」を最初に耳にしたときのことをこう振り返っている(TOKYO FM『木村拓哉のWhat’s UP SMAP!』2012年11月23日放送)。結果的に300万枚を超えるセールスを記録し、名実ともに平成を代表する歌となったこの曲。しかし、当初はシングルとしてリリースされる予定は全くなかった。SMAPのメンバー5人も、周囲のスタッフも、誰もここまでのメガヒットは予想していなかったはずだ。

曲が作られたのは、2002年7月24日リリースのアルバム『SMAP 015/Drink! SMAP!』の制作が大詰めになっていた頃だった。楽曲提供の依頼を受けた槇原敬之は「Wow」という別の曲を提案していた。しかし曲は不採用となり、急遽別の曲を書き下ろさなければならなくなった。ただ時間はない。〆切は差し迫っていた。

槇原は、この曲が「降りてきた」と言う(『ノンストップ!』フジテレビ系、2018年4月30日放送)。「サーフィンのように、後ろから波がワーってやってくる感じがしたんです」と語っている(『文藝春秋』2019年2月号)。ある朝、自宅で寝ていると、ふと「曲が書ける」という直感を得た。情景が絵のように次々と頭の中に思い浮かび、それを文字に書き起こした。

1時間足らずで書いた曲が空前のヒットに

花屋の店先に並んだ いろんな花を見ていた
ひとそれぞれ好みはあるけど どれもみんなきれいだね
この中で誰が一番だなんて 争うこともしないで
バケツの中誇らしげに しゃんと胸を張っている

それがそのまま歌詞になった。書き上げるのに20~30分、トータルでも1時間はかかっていないという。

当初からメンバーの思い入れは強かった。ファンからの人気も高かった。2002年7月から11月にかけて行われた「SMAP’02“Drink! SMAP! Tour”」では、本編のラストにこの曲が披露されている。

ただ、この曲が世に大きく広まったのは翌2003年のことだ。きっかけは、1月に放送が開始した草彅剛主演のドラマ『僕の生きる道』(フジテレビ系)の主題歌に起用されたこと。レコード会社にはシングルカットの要望が多数寄せられ、それを受けてメンバーの歌唱パートを入れ替えた『世界に一つだけの花(シングル・ヴァージョン)』が2003年3月5日にリリースされる。

反響は絶大だった。もちろん当時のSMAPはすでに日本を代表するトップアイドルだ。「夜空ノムコウ」や「らいおんハート」などのミリオンヒットもあった。しかしこの曲が日本社会に与えたインパクトは、芸能やエンタテインメントの枠を超えたものになった。