有休取得5日を目指すのはおかしい

こうした姿勢は社長になった今も変わらない。平日は17時以降の会議は基本NGとし、土日祝日はイベントなどを除き、基本的に仕事をしない、メールが来ても緊急案件以外は読んでも返信しないと決めている。休日に社長が返信すれば、受け取った側はすぐに対応しようとするだろう。返信しないのは、相手を休日に働かせないための工夫でもあるのだ。

「平日も仕事以外の時間がとれる、休みの日はしっかり休める。私はそれが当たり前であり、一人ひとりの幸福な人生にもつながるものだと考えています。会社をその方向へ変えていくためには、トップが自ら行動で示して社員の背中を押すことが大切だと考えています」

その言葉通り、谷内さんは長期休暇も積極的にとり、その都度経営幹部にも長期休暇を推奨している。これも、社長自ら行動することで会社の本気度を示し、全社員にメッセージを送り社員の行動変容を促したいという思いからだ。

国は年5日の有休義務化を打ち出しているが、参天製薬が目指すのは有休の100%消化。根底にあるのは、「会社の制度として日数が決まっているのだから、そのうち5日とれたらOKではなく100%とれなければおかしい」という考え方だ。今後も、もし休めない社員がいれば、その原因を考え解決するよう取り組んでいく方針だという。

会社を成長させるためにダイバーシティを進める

働き方・休み方に対する意識改革のほか、もうひとつ力を注いでいるのがDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン=多様性、公正・公平性、包摂性)の推進だ。最大の目的は企業成長だが、谷内さんはほかにも3つの目的達成を目指していると語る。

第一は社員のモチベーション向上だ。さまざまなアイデアを出しやすく、それが認められやすい環境は社員にも組織にも活力をもたらす。そのために、さまざまな価値観や背景を持った人が協働する、より多様性や公平性の高い職場環境を整えていくという。

第二は優秀な人材を獲得すること。もともと同社には海外拠点も多く、社員の約半数が外国籍という多様性の高い環境だが、それでもなおDE&Iを推進するのは「常に優秀な人材を惹きつける先進的な企業であり続けたいから」。

海外では、若い世代を中心にDE&Iの観点で先進的と見なされない企業に対してはすでに人材が集まりにくくなっているという。これは、目の前の成長だけでなく未来の成長も見据えての取り組みと言えるだろう。

第三はESG(環境・社会・ガバナンス)評価の向上だ。これにはDE&Iへの取り組み姿勢や達成度も含まれ、近年ではこの評価を基に投資が行われることも多い。ESG評価の向上は企業の成長に直結するのだ。