植民地の勢力拡大に焦点を当てていれば「勝者」になっていた可能性も
そこで、仮に日本がこの同盟分断理論のロジックに基づき、アメリカとイギリスの間に楔を打ち込む形で、西洋列強の保有する植民地にもっぱら焦点を当てた形で勢力拡大を図っていたら、第二次世界大戦は日本に有利な形で終わった可能性もある。
その際、イデオロギー的な観点で、アメリカの第二次世界大戦介入を抑止するならば、大東亜共栄圏構想における政治的大義——アジアを西欧列強の支配から解放する——を強調するのが有効な政治的レトリックになったであろう。
実際、これが近衛の提唱した大東亜共栄圏構想の中核にある思想の一つだったのだが、日本はこの思想を同盟分断戦略と接合することに失敗したのである。
つまるところ、国際システムにおける勢力均衡という観点からすると、第一次世界大戦がそうであったように、第二次世界大戦の帰結にもアメリカの参戦というものが、決定的な重要性を持っていた。
とりわけ三極構造のもとで、熾烈な独ソ戦により独ソ両国が消耗していく状況においては、国際システムにおけるアメリカの相対的パワーはますます大きくなっていた。
歴史家のウォーレン・キンボール(Warren F. Kimball)が「ジャグラー(Juggler)」と呼ぶように、巧妙な政治的手腕を有していたフランクリン・ルーズベルトは、このことを一定程度自覚していたため、日本の真珠湾奇襲に乗じて、第二次世界大戦への「裏口からの参戦(back door to war)」を図ったのであろう。