哲学者の東浩紀さんが立ち上げた動画配信プラットフォーム「シラス」が好調だ。開始から1年で登録者は2万5000人を超え、1カ月当たりの平均購入額は3000円以上。平均番組時間は2.8時間と非常に長いが、「有料で動画を楽しむ」スタイルが定着しているという。一体どこに魅力があるのか。東さんと、シラスで放送チャンネルを持つ辻田真佐憲さんの2人に聞いた――。
哲学者の東浩紀さん(右)と近現代史研究者の辻田真佐憲さん(左)
撮影=西田香織
哲学者の東浩紀さん(右)と近現代史研究者の辻田真佐憲さん(左)

累計売り上げが1億円以上のチャンネルも

――2020年10月にスタートした動画配信プラットフォーム「シラス」が好調ですね。オープン1周年のプレスリリースには、登録者が2万5000人以上、番組購入者の1カ月当たりの平均購入額は3000円以上、累計売り上げが1億円以上のチャンネルと1000万円以上のチャンネルが各1つずつ、100万円以上のチャンネルが7つとありました。

【東浩紀】ありがとうございます。チャンネル数は予定通りにいけば、今年中に30チャンネル近くになります。当面の目標は、チャンネル数で100以上、登録会員数は10万人以上です。既存の動画プラットフォームに比べて、少ない視聴者数でも高い収益を上げられるモデルになっているのが特徴です。

YouTubeの番組は、登録者が100万人以上いないと生活していけません。それに比べればかなり効率がよくて、そのぶんニッチな市場にあっています。

いま人文の分野は本当にお金が回っていません。哲学書が好きな人は、どう考えても100万人いませんからね。せいぜい5万人でしょう。

でもその5万人が1カ月に1万円使ってくれたら5億円です。年間で60億円。ところが、現在の出版社は、人文系の本は儲からないとあきらめている。漫画など別のところで稼いで、出版社としての格を上げるために人文系の本を出すと割り切ってしまっている。だから、読者のコミュニティを育てようという感覚がない。でも本当にコミュニティをつくれば、その人数でも十分力になるんですよ。

ぼくたちは、5万人が毎月1000円使ってくれるとしたら、その5000万円をうまい具合に分配したいと考えているんです。

いいサービスを提供すればお金を使ってくれる

【東】例えば「ゲンロン完全中継チャンネル」は、年間の売り上げが1億円以上あります。シラスの登録者は2万5000人ですから、全員にならしても1人当たり年間4000円使ってくれているわけです。ものすごく良質なお客さんだと思います。いいサービスを提供すれば、人文系のコンテンツでもちゃんとお金を使ってくれるんです。

石田英敬の『現代思想の教室』」というチャンネルでは、東京大学名誉教授の石田英敬さんが現代思想について話しています。フランス思想や記号論といった難しい話で、ほとんど大学の講義です。それなのに300人近い登録者がいます。「よく分からないけど、石田さんがすすめているからハイデガーのドイツ語版を買っちゃいました」という人まで出現しています。