利便性を感じられないから、普及しないのも当然

マイナンバーを普及させたいという政府の意図は分かる。だが間違ってはいけないのは、マイナンバー自体はすでに全国民に発行され、番号は割り振られている。番号自体は普及しているのだ。ところがマイナンバーカードが政府の思惑どおりに普及しない。これまでもマイナポイントの付与などカネをばらまいてきた結果、普及率は上昇しているとはいえ、総務省の集計によると2021年11月1日現在のマイナンバーカードの普及率は全人口の39.1%にすぎない。

カードが普及しないのは当然だ。マイナンバーカードを持っていることによる利便性を感じない人が多いからだ。コンビニで住民票が取れますと言われても、住民票が必要になること自体、年に数回あるかないかだ。ようやく、健康保険証としても使えることになったが、健康保険証すべてがマイナンバーカードに置き換わるわけではなく、どちらも使えるから、わざわざ不便なマイナンバーカードを持ち歩くのは煩わしい。運転免許証としても使えるという話もあるが、まだ先の話だし、従来の免許証が無くなるのかどうかも分からない。

財布からカードを取り出す
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そもそも、マイナンバーを他人に知られてはいけない、という話から始まったため、マイナンバーカードを持ち歩くことにも多くの人はリスクを感じている。家の金庫にしまっているという高齢者もいる。米国の社会保障番号や北欧の個人認証番号などは、多くの人が暗記していて、聞かれればその場で答えている。マイナンバーが使えない仕組みになっているのは、最初の設計から間違っているのだ。

政府の説明は「便利です」ばかり

まして、物理的なカードである必要が本当にあるのか、はまともに議論されていない。民間のポイントカードは今やカード型ではなく、スマホの中にアプリとして入れるものが主流になりつつある。財布の中にカードがいっぱいで、新しいカードはいらない、という消費者が増えていることも背景にある。

民間のクレジットカード会社が、新たにカードを作った場合、5000円分のポイントを付与する、というのはよくあるサービスだ。5000円のインセンティブを与えても、その分、いずれ利用してもらう中から回収できるからだ。では、マイナンバーカードの普及に2万円を払って、政府はどうやって回収しようとしているのか。

皆さんの所得が完全把握できますので、捕捉率が上がり税収が増えるんです。そう説明してくれれば理解できる。ところが、政府の説明は「便利です」と言うばかりで、まともに本当の狙いを明かさない。もし「カードを普及させる」ということだけが、政策目的になっているのなら、官僚が自分たちの失敗を認めたくないために、「経済対策」に名を借りてカード普及を進めようとしているということなのではないか。