そこでつくりあげたのが、現物を届けると、その場で代金を回収するという現金直売の仕組みだった。一方、商品は現地の消費者の懐具合に合わせて、小分けにし、買いやすい価格で販売する。ちなみに、「味の素」で最小容量と価格を見ると、タイが10グラム1バーツ(3.23円)、フィリピンが2.4グラム0.5ペソ(1.22円)、インドネシアが1グラム50ルピア(0.58円)といった具合である。
「例えば、3グラムというのは数日で使い切る量なんですね。お客さんにはこれを毎日買いにきてもらう。それで営業マンは、お店にこまめに何度も通って、売ってくるというのが、現金直売システムの特徴です。小売店側もそんなにお金があるわけではないので、何日か分を買って、それを売り切ったら、また我々のセールスが行ったときに買ってもらう」(渡邉)
だから、営業マンの評価査定は売り上げではなくインボイス(伝票)の枚数だ。
「売り上げをつくろうとすると、無理に押し込んだりするとか、そういうことがありますが、この仕組みが始まったときから営業マンの評価は伝票の数で行う。何度行って、コミュニケーションをどれだけ取ったかっていうのが、一番の評価のポイントなんですね」(渡邉)
味の素の海外進出は、どの料理にも使えて汎用性の高い「味の素」から入り、日本でいえば「ほんだし」に当たる風味調味料、「Cook Do」に当たるメニュー用調味料、さらにスープや冷凍食品、缶コーヒーなど付加価値の高いものを展開していくというのが定石だ。
タイでは「味の素」のシェアは8割と、調味料市場を制覇。風味調味料でもトップブランドを維持している。
(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時
(撮影=渡邊清一)