海外進出は味の素の遺伝子に深く刻み込まれている。1908年に「味の素」の製造を開始してから、数年後には台湾を皮切りに海外への輸出を開始しているのである。
現在、同社が進出している国は、約130カ国に及ぶ。海外売り上げは09年3月期で1487億円、構成比は約30%だが、すでに販売量では「味の素」の92%、風味調味料の86%を、海外売り上げが占めているのだ。
海外売り上げのなかでは、アジアが約80%と最大の比重を占め、これに南米が続く。なかでもASEANの中心国であるタイへの進出は60年と古く、域内の拠点となるまでに成長した。タイでの成功はいかにして築き上げられたのか。
「途上国の消費者にとって、一番身近なのはウエットマーケット。いわゆる市場(いちば)ですね。直接そこに行って、商品を説明して、商品を置いてもらう。つまり根を生やして足で稼ぐ。そして商品を持っていったら、そこでお金と交換してもらうという仕組みをつくった。
もう一つ大事なのは、これは創業者も指摘したことですが、商品を廉価でつくる。廉価とは、買いやすい、値ごろ感がある商品。だからその国の経済力で買えるサイズ、価格にして買っていただけること。簡単に言えばワンコインで買えるということ」(味の素社長・伊藤雅俊)。
標語的にいえば、「三現主義」と「3A」である。三現主義とは「現物」「現金」「現地語」の3つを指す。3Aは、Applicable(適切)、Available(有用)、Affordable(手ごろ)だ。
「アジアのウエットマーケットに行かれたことはありますか? 多くのお店はひと坪弱と本当に小さい」。こう語るのは、海外食品部専任部長の渡邉信。タイをはじめとする東南アジアでは、最終消費者が利用するのは個人営業の小売店が主体となる。しかも、日本などの先進国と違い、卸を経由して小売店にモノを届けるという流通網も整備されていない。いかに商品を届け、いかにして代金を回収するかが、最大の課題の一つとなる。