年収3000ドルを切る最貧層へのアプローチは、いくつかの大きな障害が立ちはだかっていた。現場に、現地語で、粘り腰の姿勢で悪戦苦闘する日本企業たち。一度ハードルを越えれば圧倒的なシェアを奪うことが可能だ。
いま世界で急速に熱を帯び始めているのが、BOPビジネスだ。
BOPとはBase of the PyramidあるいはBottom of the Pyramidの頭文字で、全世界の所得ピラミッドの最下層にいる人々のことを指す。BOPはBRICsとは違い、特定の国を指す言葉ではない。BOPは年間所得が3000ドル未満で生活している人たちと定義され、全世界では約40億人、構成比で約7割を占めると推計されている。一人ひとりの収入は少なくても、何せ人口数が膨大。全体では5兆ドル弱の所得となり、日本のそれにほぼ匹敵する。
日本でもBOPビジネスへの関心が高まっており、その背景の1つに、2009年3月期のトヨタ自動車とホンダの決算がある。08年秋に始まる金融危機の影響を受けて、先進国の自動車需要は急減。この影響を受け、トヨタの税引前利益は2.4兆円の黒字から、一気に5600億円の赤字へと転落した。これに対して、ホンダは8割もの減益ながら約1600億円の黒字を死守した。この差はどこから生まれたのか。ホンダにあってトヨタにないもの。それは二輪車事業だ。なかでもインドやベトナムなど新興国市場の成長力だという認識が広まった。
2009年の夏、経済産業省もBOPビジネス政策研究会を立ち上げ、同ビジネスの支援に本腰を入れ始めた。BOPビジネスはポスト中国、さらにはポストBRICsの本命として浮かび上がってきた。
日本ばかりではなく先進国のグローバル企業は、新興国や発展途上国では、ピラミッドの頂点に位置する高所得者層や、せいぜい中所得者層にターゲットを絞り、BOPに属する貧困者層は商売の相手としてこなかった。