麻生氏はもともと宏池会に所属し、長く冷遇されてきた。1998年に加藤紘一氏が会長に就任したのを機に宏池会を飛び出し、小グループを結成。加藤氏が清和会の森喜朗内閣への不信任案に同調した2000年の「加藤の乱」に敗れ、宏池会が分裂・衰退するのを横目に、麻生氏は自らの派閥を急拡大させ、ついには第2派閥に躍り出た。
麻生氏の野望は尽きない。仕上げは本家本元の宏池会(岸田派)を麻生派に吸収合併して「大宏池会」を結成し、清和会と肩を並べる二大派閥として君臨することである。麻生氏は清和会と大宏池会が交互に首相を輩出する将来像を周辺に打ち明けている。
麻生氏が自民党総裁選で、自派の河野氏ではなく、岸田氏を全力で支援したのも、野望のためだ。もしも河野政権が誕生すれば、世代交代が一気に進んで権力を失う恐れがあった。
「麻生氏独り勝ち」が岸田政権最大のアキレス腱に
麻生氏は思いのままになる岸田政権のうちに大宏池会を結成しておきたい。そして不人気の岸田首相が退陣する時に備えて「ポスト岸田」候補を手元に置いておきたい。それが林氏なのである。林氏を首相候補として押し上げることと引き換えに、林氏に大宏池会の結成を認めさせ、自らがキングメーカーとして君臨しようというわけだ。
甘利氏が失脚し、林氏の衆院鞍替えが実現した今回、茂木氏を外相から幹事長へ横滑りさせて林氏を外相へ登用し、一挙に「首相候補」へ引き上げる。安倍氏の反発覚悟で押し切った人事に麻生氏の強い覚悟がうかがえる。
安倍氏が麻生氏の野望に気づいていないわけがない。これまでは盟友関係を重視して麻生氏との対立を避けてきたが、二階氏や菅氏という「共通の敵」が消え、安倍氏の求める人事が一向に通らず、「麻生氏独り勝ち」の様相が強まるなか、トドメのように林氏の外相起用が飛び込んできたのである。面白いはずがない。
そのうえで大宏池会が実現し、清和会に肩を並べるか、あるいは清和会を抜いて最大派閥に躍り出れば、安倍氏と麻生氏の関係はさらに緊迫するだろう。
安倍氏と麻生氏の盟友関係の軋みこそ、岸田政権最大のアキレス腱である。岸田首相は麻生氏重視の姿勢を続けるだろう。安倍氏がただちに麻生氏と決別するのは考えにくいが、相当なストレスがたまっていくことが予想される。茂木幹事長が安倍氏と麻生氏の間をどう取り持つのかが注目される。