総裁選は岸田氏と河野氏の決選投票にもつれ、さいごは安倍氏と麻生氏が連携して岸田氏を勝利させた。岸田政権は、党役員・閣僚人事で二階氏や菅氏、河野氏に加え、河野氏を支援した石破茂氏や小泉進次郎氏らを徹底的に冷遇した。一連の人事を主導したのは、自民党副総裁に就任した麻生氏である。
岸田政権の布陣をつぶさに分析すると、岸田首相は安倍氏よりも麻生氏の意向を重視していることがみてとれる。たしかに安倍氏と麻生氏の二大キングメーカーが牛耳る政権なのだが、そのなかでも「麻生氏優位」であることは、今後の政局を読み解くにあたり、しっかりと認識しておくことが重要だ。「4長老」のなかで、この秋の総裁選・衆院選の政局を経て独り勝ちしたのは麻生氏だったのである。
幻となった「麻生―甘利ライン」
安倍氏は党運営の要である幹事長に高市氏、内閣の要である官房長官に安倍最側近の萩生田光一氏の起用を求めていたが、どちらもかなわなかった。安倍氏の意向を跳ね除けることができるのは、いまの自民党には麻生氏しかいない。
当初は麻生派重鎮の甘利氏を幹事長に起用したことが「麻生氏優位」を端的に示している。官房長官に就任した松野博一氏は安倍氏率いる清和会(安倍派)に所属していながら甘利氏の派閥横断的グループ「さいこう日本」のメンバーだ。安倍氏の顔を立てつつ主導権は握らせないという麻生氏の思惑が嗅ぎ取れる。麻生氏の政権運営構想のど真ん中にいたのが、甘利幹事長だった。
ほかにも「さいこう日本」からは党幹部に梶山弘志幹事長代行(無派閥)、田中和徳幹事長代理(麻生派)、高木毅国対委員長(安倍派)、閣僚に金子恭之総務相(岸田派)、金子原二郎農相(岸田派)、山際大志郎経済再生相(麻生派)が起用され、さながら「甘利政権」の様相となった。閣僚20人中13人が初入閣という布陣も、内閣より自民党の力が強い「党高政低」型といえ、麻生副総裁―甘利幹事長ラインですべてを仕切る思惑がにじむ体制であった。「安倍・麻生傀儡政権」ではなく「麻生傀儡政権」と言っても過言ではない滑り出しだった。
自民党が予想を覆して大勝したことと、そのなかで「政権の要」であった甘利氏が選挙区で敗れ失脚したことが岸田政権の「麻生氏優位」にどう影響するかが今後の焦点である。
安倍氏との軋み
もしマスコミの情勢調査どおりに自民党が単独過半数を割るか、もしくは単独過半数ギリギリという選挙結果だったなら、麻生氏の思いのままの体制を継続することは難しかっただろう。
二階氏や菅氏を冷遇し続ければ、彼らは野党との連携をちらつかせ政権を揺さぶられる恐れがある。岸田首相は過半数を維持するには安倍氏や麻生氏だけでなく、二階氏や菅氏、さらには河野氏や石破氏にも配慮する「挙党体制」を構築する必要に迫られたに違いない。