しかし、自民党だけで過半数を30議席近く上回る大勝に終わった結果、二階氏や菅氏らが野党と連動した政局を仕掛けることは極めて困難になった。二階氏や菅氏が離反したところで、公明党さえつなぎとめれば政権は十分に運営できるからだ。

日本維新の会が躍進し、松井一郎代表(大阪市長)と親密な菅氏が存在感を取り戻すとの見方もあるが、私は否定的だ。

自民党単独で絶対安定多数(261議席)に達した以上、衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成が必要な憲法改正の発議にさえこだわらなければ、自公政権の国会運営は安泰だ。

維新の松井代表が来夏の参院選と同時に改憲案の国民投票を実施することを主張しているのは、「3分の2」の議席確保を政治的焦点とすることで維新の存在感を高める狙いがあるとみられるが、維新の協力を取り付けることは自民党内では菅氏を利するだけで、麻生氏には何の得もない。麻生氏や岸田氏は改憲発議に極めて慎重な姿勢をとるだろう。

国会議事堂とビル群
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです

反発を承知で林芳正氏を外相に起用

麻生氏の最優先課題は、二階氏や菅氏を政権中枢から外し、岸田政権の運営を自らが主導することであり、そのために必要な議席は十分に確保できたということだ。

唯一の懸案は、安倍氏との「盟友関係」だ。最大派閥・清和会(安倍派)を率いる安倍氏と第2派閥・志公会(麻生派)を率いる麻生氏が盟友関係を続けてきたのは、二階氏や菅氏ら「共通の敵」に対抗し、河野氏や小泉氏への「世代交代」の流れを食い止めるためだった。

二階氏、菅氏、河野氏、小泉氏らが表舞台から姿を消し、衆院選で自民党が圧勝して「共通の敵」の反撃を気にする必要がなくなった結果、安倍氏との「棲み分け」がやっかいな問題として浮上してきたのである。

安倍氏にすれば、甘利氏が辞任した以上、今度こそ幹事長に高市氏起用を望んだに違いない。安倍氏にも麻生氏にも従順な茂木氏の幹事長起用は落とし所として容認できるとしても、茂木氏の後任の外相に林氏を起用したのは、露骨な「安倍軽視」ではないか——そんな安倍氏の反発を承知の上で、麻生氏が林氏の外相起用に踏み切ったことに注目すべきである。

大宏池会の野望

林氏は老舗派閥・宏池会の本流である。東京大学法学部卒業、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了という華麗な経歴を持ち、宏池会ホープとして若くから岸田氏よりはるかに高い期待を集めてきた。

宏池会第8代会長の古賀誠氏は従順な岸田氏を第9代会長に指名したが、本流の林氏を無視できず、ナンバー2の座長とした。林氏の弱点は参院議員だったことだが、今回の衆院選で衆院への鞍替えに成功し、ただちに外相に就任したことで、名実ともに岸田氏に続く「宏池会の首相候補」の座を確立したのである。