東洋人、マスク、コロナ…いわれなき人種差別の恐れも

私はイギリスにある日本の学校機関系列の英語研修施設で仕事をしています。新型コロナウイルスの問題がイギリスでも大きなニュースになり始めたころ、日本の大学生たちを受け入れましたが、その時、まず「外出時にマスクをしないように」と注意をしました。

当時、東アジア系の留学生が、人種を理由に暴行される事件が発生し大きなニュースになっていたからです。イギリス人が着けないマスクを着けて街を歩けばかなり目立ってしまい、標的になりかねない。マスク姿がヘイトクライム(憎悪犯罪)の誘因になってしまう危惧がありました。

また、学生たちは近隣の小・中学校を訪問する予定もあったため、子供たちが怖がってしまうのを避けるためにもマスクを着けないように呼びかけました。

イギリスの人たちは、マスク姿の日本の学生を見るたびに、それに驚きます。「この学生は何でマスクしているの?」と質問を受けることも度々でした。私からは「これは日本の習慣で……」と説明してきました。マスクを着けるという習慣が全くなかったイギリス人にとって、不思議な光景に見えたことでしょう。

これほどマスクを嫌っていたイギリス人ですが、そんな状況が今、変わり始めています。

マスク不要論を貫くイギリスのメディア

新型コロナウイルスが中国で問題化した時点から、イギリスのメディアでは、マスク姿の人々の映像がその象徴として扱われています。イギリスの主要メディアは、ほぼ一貫して公衆でのマスク着用は不要であるとの意見を貫いています。

スーパーの行列。店内の人数制限があり、そのため2メートルおきの距離を保って列を作って待っている。(写真提供=堀井光俊教授)
スーパーの行列。店内の人数制限があり、そのため2メートルおきの距離を保って列を作って待っている。(写真提供=堀井光俊教授)

本稿では主に英国放送協会(BBC)の報道に見られる例を簡潔に紹介します。

私の記憶にある限り、少なくともBBCでは2020年1月から新型コロナのニュースが大々的に報じられており、それが常にマスクのイメージとセットになっていました。BBCがマスクについてきちんとした解説を始めたのは3月になってからです。

2020年3月2日にBBCの保健担当編集員ファーガス・ウォルッシュ氏が同局のニュース番組上でマスクに関する解説を行いました(※1)。彼は番組上、一般的なサージカルマスクを手にしながら、これは「効果的ではない」「間違った衛生意識を与える」と強調します。

「効果なし」と断言しておきながら「医療従事者のために残しておくべき」とも加えます。しかし、医療従事者が使うものなのだから予防効果があるはずだという方向には話は進みません。なぜか「だからマスクは必要ない」と結論付けられてしまうのです。

※1 Coronavirus: Do face masks work? And other questions answered