「僕にとっての家族は、父と母だと気づいた」

ところが、Tさんと夫の関係は以前とは違ったものになっていった。「ちょうどその頃、息子の状態も今までになく不安定になりはじめた。家のなかの空気が重苦しくなり、毎日のように息子のことで不安や愚痴をぶつける私に嫌気が差したのか、夫は毎週金曜日の夜から実家に帰り、月曜日はそのまま実家から出社。平日の夜は私が寝静まるのを待ち、深い時間に帰宅するようになった」

Tさんとできるだけ顔を合わせないようにしているとしか思えない夫の行動に疑問を感じた彼女は、夫にそのことをたずねた。すると、夫からは驚きの言葉が返ってきたのだった。「今回の介護生活をしたことで、僕にとっての“自分の家族”はキミや息子ではなく、父と母だったと気づいてしまった。誰よりも僕を頼りにしてくれるのも、僕に愛情を寄せてくれるのも、キミや息子ではなく父と母だったんだ」。

「じゃあ、私と息子のことは大切じゃないの? どうでもいいわけ?」と思わず責め立ててしまったTさんだったが、夫からは「申し訳ない。この生活が嫌なら別れてほしい」と静かに告げられただけだったという。Tさんは、「今すぐ別れて息子と新しい生活をはじめたほうがいいのか、あと何年先になるかわからないが、両親をみとって夫が私たちのところに戻ってくるまで待つという選択をするべきか、迷っている」とため息をついた。

離婚届
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「あなたの年じゃ子供は産めないでしょう?」

【CASE3】もともと複雑な嫁姑関係が介護で悪化。姑と夫の仕打ちで逃げ出した妻

「そもそも結婚した時から、お義母さんとはギクシャクした仲だった。それが介護をきっかけに改善するどころか、かえって最悪な関係になった」とはKさん(49歳)。幼い頃に父親を亡くし、母親ひとりに育てられた5歳年下の夫とはKさんが30代後半の時に結婚した。

結婚の報告をしに夫の実家を訪れた際、義母から言われた言葉をKさんは今も忘れられないという。「夫が何かの用事で席を立ってお義母さんと私とが二人きりになったところで、『本当は、息子はもっと若い女性と結婚してほしかった。だって、あなたの年じゃもう子供は産めないでしょう?』と私に冷たく言い放った。悔しいことに、結局私たち夫婦には子供ができなかった」。

初対面で先制攻撃をされたこともあり、義母とは結婚後も意識的に距離を置いていたKさんだったが、昨年から同居して介護をする生活がスタートした。雨の日に転倒して骨折した義母に介護が必要になり、「ひとり暮らしをさせたくない」という夫の希望もあった。義母と同居することに対し、ハッキリと断る理由もなかったKさんはしぶしぶ賛同したが、同居後すぐに後悔したという。