誤算を生んだ最大の要因はあのナイキ厚底シューズ

川崎監督が2020年の予選会で一番見誤ったと感じているのが急激なレベルアップだ。この予選会でトップ通過した順大は過去最速記録を6分以上も更新する10時間23分34秒。コース終盤の起伏部分がなくなったことと、雨天で気温が低かったことを考慮しても驚異的な記録だった。

「正直、ここまで上がるとは思っていませんでした。これだけ急激なレベルアップは過去にないことですし、その要因はナイキ厚底シューズの存在に他なりません。直前の調整メニューである5km走のタイムは順大と30秒も違っていて、ショックを受けました」

中央学大は出場12人中10人がナイキ厚底シューズを履いていたが、順大は12人全員がナイキ厚底シューズを着用していた。さらに順大は厚底シューズを使う練習と、使わない練習を分けていたのだ。

2020年秋、屈辱の予選会敗退後、川崎監督は「変わるんだ」という気持ちを全面に押し出して新チームを始動させた。当時2年生だった小島慎也を主将に抜擢し、スピード練習では1㎞あたり3秒近くもタイムを引き上げた。5㎞換算で約15秒。これはナイキ厚底シューズがもたらしている高速化に近いタイムだ。

さらに翌2021年度からはユニフォームもリニューアル。上がフラッシュイエロー、下が黒というカラーリングにした。これは見た目を刷新して、選手の気持ちを変えさせただけでなく、タイツを着用したい選手に対応するためのウエア的戦略でもあった。

予選通過の鍵は「速さ」だけでなく「強さ」にもある

スピード練習のタイムを引き上げたことは、トラック競技でのタイム向上にもつながった。

2021年度に入り、多くの選手が自己ベストを更新。エースの栗原啓吾(4年)は10000mで28分03秒39をマークして、中央学大記録を13年ぶりに塗り替えた。6月の全日本大学駅伝関東学連推薦選考会でも2区を走った選手が最下位に沈むも、大激戦を6位で通過。前半シーズンは順調だった。

マラソンの給水所
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ところが、今夏の合宿で故障者や体調不良者が続出。チームに暗雲がたれこめた。

「全日本予選会を通過して、ホッとしたのが大きかったと思いますね。やれるんだ、という気持ちが逆に選手たちの油断につながりました。それと夏合宿では距離走(25~30㎞)のペースを例年と比べて、5㎞で30~60秒ほど上げたんです。それが故障の原因になった部分もあったと思います」

9月末時点で「まともに計算できるのは5人程度」という状況で、川崎監督の脳裏には2年連続の落選がよぎった。それでもなんとか離脱者が戻り、10月に入ってから「チームとしてスタートできた」という。週末に短期合宿を行うなど、急ピッチで仕上げてきた。主力4人を外したものの、「予選通過できるかは五分五分」という状況までチーム状態を引き上げた。