箱根予選会の魔物にのみ込まれた
話はちょうど1年前、2020年10月の箱根駅伝予選会に遡る。中央学大は2020年正月の本戦で、翌2021年のシード権獲得に一歩届かない11位だった(それまで激動の箱根駅伝において5年連続でシード権を得ていた)。
そうして迎えた2020年の予選会。雨のレースは大波乱が待っていた。中央学大は近年、本戦出場の常連であり、この予選会でも上位通過候補に挙げられていた。だが、ここでも低迷し、12位に沈む。悪夢から数日後、川崎勇二監督は電話口で筆者にこんな“告白”をした。
「正直、まだ実感がないですね。18年連続で出場していましたので、落ちるという感覚を忘れていました。箱根駅伝に出られないという感覚もまだわからないです。私と部員、大学も含めて落ちる想定がゼロでした。主力2人を外しているんですけど、それでも落ちることはないだろうと思っていました。学生はトップ通過を目標にしていましたので、私もそのつもりでいたんです」
この2020年秋の予選会でトップ通過を狙っていたチームがなぜ12位の敗北を喫したのか。
中央学大は5kmを2位(上位10選手の合計タイム)で通過するが、10kmで5位に後退する。本戦へのキップは「10枚」。18km通過時で9位まで転落して崖っぷちに追い込まれていた。最終結果で中央学大は10時間34分36秒で12位。37秒差で、19年連続出場を逃した。ひとり当たり4秒というタイムが足りなかった。
結果発表の直後、川崎監督は選手たちに声をかけていない。何も言葉が出なかったという。
22歳年下の後輩に頭を下げて、教えを乞うた
1985年にスタートした中央学大駅伝部は川崎監督がほぼゼロの状態から作り上げてきたチームだ。箱根駅伝には1994年に初出場。2003年に初めてシード権を獲得すると、2008年には総合3位に食い込んでいる。近年は関係者がみな実力ある大学と認めていた。
しかし、前述したように2020年の箱根駅伝で11位に終わり、シード権を逃すと、10月の予選会でも落選(12位)。失意の川崎監督が真っ先に行ったのが、情報収集だった。
川崎監督は順天堂大・長門俊介駅伝監督に連絡を取り、1年後(2021年)の予選会突破に向け、教えを乞うたのだ。川崎監督も順大OB。22歳も年下の後輩に頭を下げたかたちだ。上下関係がはっきりしている体育会の世界においては異例な対応だ。
「長門監督に予選会の戦略、厚底シューズの活用法などを教えてくれないか、とお願いしたところ、彼は素直にぜんぶ教えてくれました。それを聞くと、私の対策は不十分だったなと思います。私自身も『落ちることはないだろう』という気持ちが正直ありました。その過信から、予選会の対策、緻密さに欠けたなと大いに反省しています」