「根性」で行き詰まったカープの前田選手

元広島東洋カープの前田智徳選手は、私としてはカープ史上最高の天才バッターだったと思っているのですが、彼は「根性」の意識が強くて手抜きをしなかったために故障に泣かされました。

天才的な打撃だけでは飽き足らず守備においても4年連続でゴールデングラブ賞を獲得するなど全力プレーを常としていた選手です。

ある時からアキレス腱に痛みを感じ始めたものの、それでも痛む箇所にテーピングをしながら出場を続けた結果、アキレス腱断裂という選手生命にかかわる大ケガを負ってしまいます。

故障からのリハビリ中には「どうせならもう片方のアキレス腱も切れてしまえば両脚のバランスがよくなるのに」とまで思い詰め、復帰後に思い通りのバッティングができないと感じると「前田智徳という打者はもう死にました」と語ったそうです。

マウンドに転がった野球ボール
写真=iStock.com/miflippo
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天才なら天才らしく、やりたいことや得意なことだけに専念できるような性格であれば故障をすることはなかったのかもしれません。昔は「打撃で結果を出せばそれで十分」と、守備も走塁もいい加減な選手がいましたが、前田選手もそのくらいの気持ちでいれば、さらに結果を出せたのではないでしょうか。

とはいえ、前田選手のリハビリ中の発言などを見た限りでは、仮にアキレス腱の故障がなかったとしても、自身の打撃を追求するあまりにメンタルのほうを病んでしまい、適応障害になっていたのではないかとも感じてしまうのです。

不安がるくせに備えをしていない人がほとんど

日本人の思考パターンの悪いクセとして「予期不安が強い割にソリューションを求めない」ことが挙げられます。

悪い結果を想像して不安がりながら、それをどうやって解決するかについては考えようとしないのです。

たとえば毎年のようにがん検診を受けていても、もし自分ががんだとわかった時に、どこの病院へ行こうかとあらかじめ決めている人はかなりの少数派です。

あるいは認知症になりたくないと言って一生懸命に脳トレをやっていても、自分が認知症になった時にどこの老人ホームに入ろうと決めている人はいないでしょう。介護保険の使い方もほとんどの人は知りません。

がんや認知症になったらどうしようという不安は大きいくせに、いざそうなった時の備えをしていないのです。

しかし、ことわざにも「備えあれば憂いなし」というように、いざという時の解決策を考えておけば予期不安を強くしなくてもいいのです。福島第一原子力発電所の事故の時にしても、絶対に事故は起こらないなどという今にして思えばあまりに非現実的なことを考えていました。そのため、いざ事故が起きた時のマニュアルというものがまったく用意されていませんでした。