米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手は、厳しいと言われていた投手と打者の二刀流でペナントレースを戦い抜いた。なぜプレッシャーのかかる状況で結果を残すことができるのか。精神科医の和田秀樹さんは「彼はインタビューで英語をほとんど使わない。これはメンタルヘルスの観点で優秀だ」という――。

※本稿は、和田秀樹『適応障害の真実』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

大谷翔平選手
写真=時事通信フォト
コミッショナー特別表彰を受け、記者の質問に答えるエンゼルスの大谷翔平=2021年10月26日、アメリカ・ヒューストン

大谷選手はなぜ大きなプレッシャーに強いのか

メジャーリーグで大活躍する大谷翔平選手もまた精神科医の視点からすると非常に優れた存在だと言えます。

東洋人が異国の地において二刀流という前代未聞のことをやって、なおかつホームランを量産すれば、どんどん周囲の要求水準や期待水準は上昇します。

球団からは起用法などにおいて特別扱いを受け、さらに人気も抜群となれば他球団からはもちろんのこと同じチームの仲間からも嫉妬されそうな要素は山ほどあります。

これは本来であればものすごくプレッシャーのかかる状況のはずです。そのプレッシャーからストレスを受け取った時には、それこそ適応障害になっても不思議ではないでしょう。実際問題として、野球でもサッカーでも海外で適応障害になってしまって思うようなパフォーマンスを発揮できなかった選手は、これまでに何人もいたのではないでしょうか。

しかし、大谷選手はその時にどうやったらプレッシャーがかからないようになるのか、つまり「どうすればストレスを感じなくて済むか」ということを、しっかりと考えているように見受けられます。

いつも笑顔を絶やさず、それでいてオールスターゲームのホームランダービーの時には疲労を隠さずへたり込んだように、素直な自分の姿を見せる。グラウンドにゴミが落ちているのを見つければ率先して拾う。

ホームランダービーでもらった賞金約15万ドル(約1650万円)をスタッフに配ったというのも単に気前がいいということではなく、そのように感謝の気持ちを表すことで周囲から好かれ、味方につけるという処世術的な考えがあったのではないでしょうか。

インタビューで無理して英語を話さない「手抜き」

さらに大谷選手がメンタルヘルス的に優秀だと感じるのは「無理をしない」点です。

大谷選手は日常会話だと英語も使っているようですが、それにもかかわらずインタビューや会見では絶対に英語で答えません。そこで無理をして「英語で会見しよう」「MLBの選手であればしっかり英語を話さなければいけない」とは考えないのです。

正確なニュアンスが求められる会見の場において、自分の思いを正確に伝えるだけの英語力を身につけることに時間を割くよりも、会見は通訳に任せてしまう。そして本格的な英語を学ぶ時間があれば、それを練習や休息に使ったほうがいいという一種の割り切り、つまりは「手抜き」「適当」の感覚があるのでしょう。

多くの現役選手や評論家が「二刀流を続けることは心身両面において厳しい」と言っていたなかで大谷選手がそれをこなすことができる理由は、そういうところにもあるのかもしれません。

日本人は英語コンプレックスの塊のようなところがありますが、大谷選手からそういった雰囲気は感じられません。