デベロッパーは1戸でも売れ残ると販売センターを閉められず、コストがかさみ、集客が難しくなり、値引きで大損を出すことになる。過去にそうした物件が大量にあったということだ。売れ残りは財務諸表に販売用不動産(売り物)としていつまでも置いておくことはできず、固定資産(自社所有の運用資産)に振り替えられる。

そんな物件が多数あるのが、デベロッパーの記憶から消えるわけがない。全戸売り切るということに対して、新築のデベロッパーと中古の個人ではスタンスが全く違うと思ってもらったほうがいい。

億ションが売れる立地は非常に限られている

新築マンションの単価が高くなる中で、分譲価格は単価ほど高くなることはない。専有面積が小さくなっているからだ。

デベロッパーは分譲価格を高くすると、売れ行きが悪くなることに非常にナーバスだ。だからこそ、商品企画としての面積を小さくし、価格を低く抑えようとする。これには住宅ローンの上限が原則1億円であることも関係している。頭金を何千万円も用意できる人はそう多くないのだ。

億ションが売れる理由にパワーカップルが増えているからというのが言われることが多い。これはストーリーとしての納得感だけはあるが、実態を説明するだけの裏は取れない。共働き世帯の購入割合が増えているのは事実だが、ペアローンを組む人はほとんど増えていない。その割合は8組に1組程度しかないし、高額帯を買っている人の多くは1人の住宅ローンであることのほうが圧倒的に多いことは以前とほぼ変わっていない。

若いカップルに物件の説明をする不動産業者
写真=iStock.com/alvarez
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さきほど、新築億ションの供給戸数は2020年で2015年比108%と書いたが、中古では155%まで増えている。デベロッパーが実態以上に控えめなのがここで分かる。その理由は立地にある。

億ションが売れる立地は非常に限られているからだ。新築の際には、販売センターで実物を見ることなく、気分を高揚させて売り切ることがあり得るが、中古では現地に行き、実物を見て決めることになる。現実に直面しながら決断するので、妄想が働く余地が少ない。

現地の周辺環境、居住者の身なり、リビングからの眺望、1億円以上の対価に見合う満足感などが購入決断には必要になる。その中でも最も影響が大きいのが、立地である。