俳優・市原隼人の代表作になると確信
もうひとつ、最大の魅力はなんといっても市原隼人のコメディ筋肉である。威厳ある教師を装う場面では常に冷静で真顔。トーンの低い抑えめの声で理路整然と話すも、生徒たちを叱咤するときは無駄に激昂。
80年代設定なので、ネクタイの柄は微妙にトンチキだし、あの時代に教師が愛用していた謎のピタッとしたスラックスを着こなしている。もうその存在だけでもおかしいのだが、毎回給食のシーンは感情の乱高下を全身で表現。
給食を食べられる喜びは、校歌斉唱とともにこぶしをぶんぶん振り回して、キレのよい動きで体現。献立に関する蘊蓄や味わいの表現(脳内で一人漫談)は、声色を適宜変えてコミカルかつキュートに展開。筋肉質の市原が繰り出す「給食偏愛ひとり芝居」にはただならぬ&並々ならぬおかしさがある。
余談だが、市原といえば、岩井俊二映画であどけない少年を演じ、ベビーフェイスで女性の心をつかみ、「WATER BOYS2」や「ROOKIES」の青春群像劇で活躍してきたキャリアの長い役者だ。ここ最近は上腕の筋肉を無駄に増し、用心棒的な役柄も増えていた。NHK大河ドラマ「おんな城主直虎」でラーメン屋店主のように常に腕を組むマッチョ僧侶・傑山役とか、「おしゃ家ソムリエおしゃ子!」(2020年、テレ東系)でヒロインを陰ながら守る隠戸九雲役とかね。
彼のキャリアのすべてを1本の綱に撚ったら甘利田幸男になった、そんな印象。代表作にしてもいい、と確信している。
そして、宿敵とも同志ともいえる生徒・神野が同じ中学校に転入してきたことから始まったSeason2。給食愛を競うかのように奇策で挑んでくる神野に、己の不甲斐なさを痛感する甘利田。苦悩とストレスの日々が再び始まる。
懐かしさとおかしさの千本ノックが心地よい
このドラマは、社会問題に斬りこむ鋭さもなければ、明日役にたつ生活のヒントも、職場で言ってみたい名言もほぼない。
得・利・益を求めてはいけない。ただ懐かしさとおかしさの千本ノック状態を味わうのみ。非生産的だが、確実に現実逃避できる30分。忙しい人こそ、この無益で豊かな30分を堪能してほしい。