ドラッカーが、ある企業の会長に時間の使い方を訊ねた。すると、幹部との時間、大切な客との時間、地域活動のための時間に3等分していると答えた。そこで、6週間にわたって記録をしてもらった。結果は惨憺たるもので、3つどれにもほとんど時間を使っていないことが判明した。

実際には、親しい顧客の注文品を早くつくれと工場長を督促する電話などに時間を浪費していたという。記憶より記録。正しい時間管理は現状の正確な把握からはじめねばならない。

現状が把握できたら、さっそく大なたを振るって不要な時間を切り取り、捨てることをはじめなくてはならない。

長い人生であっても短い1週間でも、果敢な行動が求められる点では変わらない。無駄だと思いつつ出席しつづける会合などは、立ち枯れの花しかない花壇に水をやりつづけているようなものである。成果を期待できない仕事も同じく、迷わずポイ捨てに。

過ぎ去った時間にかまけるのも無駄である。「あなたが書いたなかで、最高の本はどれですか」と訊ねられたドラッカーは即座に「次に出る本です」と答えた。過去に書いた作品からは何も生まれないし、育たない。だから振り向かない。この徹底ぶりが未来という時間に活力を与える。

非生産的な部分をカットしてすっきりしたら、次に自分の自由になる時間を大きくひとまとめにすることである。仕事の時間のうち少なくとも4分の1をまとめられれば合格。

なぜ大きなまとまりにするのか。時間の管理は、時間の節約ではない。よりよい仕事をする時間をしっかり確保するためである。

時間のまとめかたについては、1週間や1日という単位を利用すると比較的スムーズにいく。たとえば、ルーティン化している仕事を特定の曜日に集中する。あるいは、可能ならばの話だけれど、週に1日は自宅で仕事をすることにし、なにをするかも決めてしまう。

ある管理職は、早朝の時間を受信メールの処理に充てている。自宅のパソコンに転送しておいたメールを一気に読み、必要なものには返信する。こうすることで連日ほぼ一定数のメールを取り扱うことになる。結果として時間のかたまりを切り取ることができる。

さて、まとまった時間を獲得し、ひとつのことに集中して仕事をすることができるようになった。このとき、なにを優先させるか。どの仕事が重要で、どれが重要でないか。その選択によって、成果は大きく左右される。

※すべて雑誌掲載当時

(枝川公一(ノンフィクション作家)=文 Time&Life Pictures/Getty Images=写真)