理由は三つあります。

一つは何も考えずにできてしまったケース。もう一つは健常な子どもを、最初の子どもの代わりにしようとするケース。最後に、自分たちが死んだ後に、障害を持った子どもの面倒を見てもらうために子どもをつくるケース。それぞれ問題は抱えますが、搾取子となるのは三番目のケースです。

生まれてきた子どもは、人生のレールを完全に決められて過ごします。これらの人びとは、人生に大きな悩みを当然抱えます。

実家に毎月10万円を送り続けたある患者の話

友達や周囲の人とあまりに生活が違いますから、「こうせねばならない」という常識が周りと大きくズレており、心が悲鳴をあげてしまうことはよく起こります。

ある日「不眠症」だという初診のKさんが来られました。その方は、「障害を持ったお姉さんのために、毎月10万円を工面して家計に入れ続けないといけないのに、最近夜全く寝られなくなり、朝も起き上がれなくなってしまったんです」と言いながら、涙をボロボロ流していました。

眠れず、会社も休みがちになり、アルバイトも行けない、収入の八割程度に当たる10万円を必死に家に入れ続けてきたけれど、それでも足りないと貯金を取り崩し、維持できなくなって「とにかく寝られるようにしてください」と当院を受診されました。

話をよくよく聞くと、別に親に「10万円絶対家に入れなさい」とは言われていない様子でした。私は一旦仕事を辞めて、心身共に回復するまでは、お金を家に入れることを止めましょう、と提案しました。しかしKさんは「それじゃ私の生きている意味がないんです」と、やっぱり泣きながら訴えます。

泣いている人の影
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです

あなたの人生は姉のためのものではない

でも、この状態では薬で寝たって回復できないことは、火を見るよりも明らかでした。Kさんは「自分は障害のあるお姉さんのためにこの世に生まれたから、親が死んだ後は一人でお姉さんを支えていかないといけないし、そうしないと生きている価値が自分にはない」と心から信じていました。

しかし今その「生きる価値」を維持できなくなり、でも死んだらもっと役に立てないし、と思い悩まれていました。人は、その人の人生を生きるために存在しているのに、この「自分の生きる価値」の設定は、本当に救いがありません。

ここで「私は、自分の人生を生きるんだ」と家を飛び出せる力があればいいのですが、ずっと「お姉さんのために生きなさい」と言われてきたKさんは、すでに自分の存在意義が「姉を養うこと」になっているので、「自分のために生きる」ということは、もう頭のどこにも存在しないのです。

実際、調子を崩してしまったのも、その責任が果たせていないことからでした。

あなたはこのケースで、悪いのはやはりこのKさんだと思いますか?

ポイント
過去は変えられない、現在も変えづらいけれど、未来は変えることができる