石炭、LNGをめぐって「争奪戦」が起きている
「一難去ってまた一難だ」。自民党総裁選で「原発ゼロ」を信条とする河野太郎氏が、国民の支持を得ながらも岸田文雄氏に敗れ、国内電力業界からは安堵の声が漏れる。
河野氏は自民党の原発推進派に配慮して総裁選ではその持論を封印したが、10月に改定される「エネルギー基本計画」に関して太陽光などの再生エネルギーの比率を原案より引き上げるように経済産業省・資源エネルギー庁の幹部に「恫喝」したやり取りが週刊文春に報じられたように、自らの主張を曲げない意固地なところがある。電力業界では「実際に総理総裁になれば、どうなるかわからない」と警戒していた。
大手電力業界の「天敵」とも言える河野総裁誕生の悪夢はひとまず消え去ったが、足元では、もう一つの問題が現実味を増して経営にのしかかってきている。この冬の電力不足の問題だ。
新型コロナウイルス感染拡大の収束で、経済活動が回復するにつれて、中国を筆頭に電力の需要が増加。発電燃料である液化天然ガス(LNG)に加え、最近では石炭も争奪戦の様相になっている。
「近々、オーストラリアと中国の経済対立が解けるかもしれない」。こんな情報が商社など石炭やLNGをエネルギー物資を扱う国内企業に広まっている。中国の一部の港から豪州産の石炭が荷揚げされたという情報が飛び交っているからだ。
中国全土で相次いで停電が発生する事態に
豪中関係は昨年4月、モリソン政権が新型コロナウイルスの発生源の独立調査を求めたことで、悪化した。中国は大麦や食肉など豪産品の輸入を制限する経済報復に踏み切った。
さらに、軍事面でも米国と英国の三カ国で新たに「AUKUS(オーカス)」と名付けた安全保障の枠組みを締結。豪州は米英から原子力潜水艦の技術供与を受けることになり、関係修復は困難な状況に陥った。
しかし、中国全土で相次いで停電が発生する事態になるにつれて、「カーボンニュートラル」を掲げ、北京五輪を青空の下で開催したいとする中国政府も背に腹は代えられなくなってきている。
まずは、国内石炭の増産に乗り出し始めた。習近平指導部は温暖化対策として発電用石炭の生産を制限してきたが、主産地の内モンゴル自治区政府は炭鉱会社に1億トン近くの増産を指示。10月末までに72カ所の炭鉱の生産制限を解いて能力を十分に発揮するよう命令を下した。
中国政府が気にかけるのが同国内に拠点を構える海外企業の「中国離れ」だ。