●上野さんからのアドバイス
社長を含め、管理職の仕事の半分は誰に何をやってもらうかを決めることで占められます。私が自分で実務を担当しているのは、CGO(チーフガンダムオフィサー)くらいです。管理職はたくさんの案件を抱えているものなので、まわりに協力を得なければ仕事を処理できません。仕事のスピードは、人をうまく巻き込めるかどうかにかかっています。
まわりの協力を引き出すには、いくつか条件があります。まず頭をパラレルに動かすのではなく、毎回切り替えることです。普通は複数の案件が同時進行しているので、前の会議の内容を引きずったまま次の会議に臨むと、的確な指示ができません。
人に仕事を任せるときは、自分のこだわりを棚上げする割り切りも大切です。仕事をする際にこだわりは必要ですが、任せた仕事に関してこだわりを発揮すべきは、自分でなく相手のほうです。にもかかわらず自分のこだわりを押し付けると、相手は振られた仕事に楽しみを見出せず“やらされ感”が増していきます。
人にはそれぞれ長所と短所があります。それが個性なのですが、考えてみると私は短所を直すことより、長所を伸ばすことでここまできました。ですから相手の長所も尊重しようと考えています。たとえそれが自分のこだわりと違っていても、思い切って任せる覚悟が必要です。
部下の個性に任せると、自分の意図と正反対の方向にいってしまうのではないかと心配する人も多いでしょう。そこで欠かせないのが最初に目標を共有することです。最終的に同じ海に注ぎ込むなら、川の流れは曲がっていてもいいのです。河口で待っていれば、川の流れを無理に変えようとしなくても、いずれ水は流れ込んでくるのですから。
ただし、きちんと同じ海に向かって流れてもらうためには目標がシンプルでなければいけません。目標が難解だと、相手が迷ってしまいます。自分が課題を克服するときと同じで、重要なものを3つ共有できれば、あとは放っておいたほうがいいでしょう。
途中で新たな課題が発生する場合もありますが、そこで流れを止めないことが大切です。課題が浮かぶたびに調整して部分最適を図ると、全体の方向性がズレてスピードも鈍ります。途中で課題が発生したら、それを指摘するよりも「いいからこっちにおいで」と声をかけ、ひとまず河口を目指してもらったほうがいい。河口にたどり着けばたいていの課題は自然に解決しているし、あとからでも修正ができます。それが周囲の力を最大限に使い、短期間に確実に成果を挙げるためのコツです。
※すべて雑誌掲載当時
HRインスティテュート代表取締役 野口吉昭
横浜国立大学工学部大学院修了。建築設計事務所、コンサルティング会社を経て、1993年HRインスティテュートを設立。『コンサルタントの習慣術』『コンサルタントの「質問力」』など著書多数。
バンダイ社長 上野和典
1953年、神奈川県生まれ。77年武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部卒業、バンダイ入社。2001年取締役、03年常務、05年社長。趣味は料理、絵を描くこと。著書に『給料を上げたければ、部下を偉くしろ』。