「コスト意識」と「自己変革の意識」が足りない
安定し好待遇で自由な職場の獲得のために、犠牲にした何かとは何だろうか。それは①コスト意識と②自己変革の意識だ。
JTBは、売上高1兆円社員2万人の名門大企業ながら、非上場会社であることをいいことに、長年の蓄積による肥大化した本部組織と無数の子会社・関連会社を擁し、社員にも業績にも優しい経営、一等地の店舗と高コストの人材、公益機関のような振る舞いをしてきた。これによりコストを増大させてきたのが凋落の原因である。コロナ禍はきっかけにすぎないのだ。
JTBでは、店頭での対面販売を中心とした個人事業については、実は低迷が続いていた。店舗ゼロの米国エクスペディアや一休などネット専業会社やスマホサイトに市場を奪われ続けている。デジタル化の進展は、専門家でなくても、みえていた近未来像だ。
法人事業は、足元では、国内外の出張の減少に加え、修学旅行を含む団体旅行の取り消しや大型イベントの中止・延期が相次ぎ、大幅に需要が減少している。テレワークの定着などもあり、コロナ後であっても、元のように回復するかは不透明だ。
一等地の店舗・高スペックな人員・子会社が重荷
店頭での対面販売重視でオンライン化が遅れ、主要ターミナル駅にある一等地の店舗と就職人気No1に惹かれて集まった高スペックな人材がいまや重荷になっているのは銀行と同じだ。店舗をゼロにし、人員を限りなく絞らない限り、オンライン専業会社にはコスト競争力で勝ち目はない。
国内34社、海外96社にも及ぶ無数のグループ企業の統廃合も不可避だ。JTBは自治体の観光課題解決などソリューションビジネスを事業の中核に育て、新たな観光資源の発掘や、ふるさと納税の商品開発、国際会議や見本市の誘致など「MICE」事業を強化するというが、こうした新規業務も収益の柱になるまでには時間が掛かり、有望な分野であればあるほど、当然他社との競争も激しくなる。
コロナ収斂によって旅行需要は回復するが、オンライン化はさらに進むことになるため、店舗・人員・子会社を多数抱えるJTBにとって、アフターコロナも前途多難だ。JTBは①コスト意識と②自己変革の意識を強く持ち、店舗をゼロにしてオンライン専業会社になるくらいの覚悟がない限り、このままでは2010年のJAL破綻の二の舞になる可能性もあろう。