主役は車メーカーから米中IT企業に変わる

今後EV化と自動運転の2軸が進んだ先では、自動車を取り巻く環境が一変することに、まだほとんどの人が気づいていないか、遠い未来の話だと思っている。

EVは、部品点数がガソリン車の半分ほどで、モジュール化によっては10分の1になってもおかしくない。エンジン周りや、ギア、排ガス処理など、不要になる部品メーカーは相当な打撃を受ける。当然、ガソリンスタンドは利用されない。ガソリン車、ディーゼル車のために築いてきたインフラの多くが次第に不要になる。

完全自動運転になれば、もっと大きな変化がある。

まず、タクシーやバスの運転手が不要となり、多くの雇用が失われるだろう。巨大産業の自動車保険も様変わりする。テスラやウェイモのようにデータベースが豊富なクルマは事故の確率が低いから、保険料が安くなる。運転手ではなくシステムのメーカーによって保険料が決まるようになるだろう。

そもそも自家用車を保有する必要もない。スマホで呼べば、自宅までレベル5の無人車が迎えにくる。目的地を入力すると、近ければ乗せていき、遠い場所なら電車の駅まで送ってくれる。電車の到着駅に着いたら、別のクルマが待っていて目的地まで運んでくれる。

自宅の駐車場がなくなり、自動車ディーラーもなくなる。自動車の販売台数は10分の1以下になるはずだ。

運転免許証は不要になり、老人に免許を返上せよ、と迫る必要もなくなる。クルマは規則通りに動くので白バイ警官の仕事もなくなる。

レベル5は自動車業界だけでなく、人々の暮らしを大きく変える。2035年頃に実用化される予想だ。EUの完全EV化と同時期だが、レベル5のほうがはるかに社会的インパクトが大きい。そもそも自動車メーカーはハコを提供するだけで、顧客とスマホでつながっているGAFAや配車サービス大手の米UberとLyft、中国の滴滴(ディディ)などの会社が移動の主役に躍り出ることになるのだ。

(構成=伊田欣司)
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