東大合格者が滑り止めの早慶に落ちるワケ
例えば、東大の理系数学では、例年、A3サイズの解答用紙が2枚配られ、それぞれの表で2問、裏で1問を解答することになっている。
回答欄は真っ白なので、試験が始まったらまず真ん中に縦線を引いて、計算式やグラフなどをレイアウトしやすくしておく。このような下ごしらえのスキルが事前に身についているか否かで、本番の得点はずいぶんと変わるだろう。
パターン暗記に偏重したこのような勉強では、その知識を応用する力は育たない。
しかし、現状の東大入試そのものが、センスや試行錯誤の末に課題を突破する力を求めておらず、発想力が必要とされるような問題を解かなくても、暗記で対応できる問題のみ得点していれば合格はできてしまう。
例えば、数学は、東大入試のなかでは比較的発想力が必要とされる科目だ。それでも毎年、全問題(文系4問、理系6問)のうちの2、3問は、教科書的な解法パターンとその組み合わせで解けるレベルの問題が出題される。
そのため、教科書レベルの標準問題が載っている『チャート式基礎からの数学(通称・青チャート)』(数研出版)シリーズを丸暗記して臨むという試験対策が有効で、東大受験生の間でも有名だ。
最悪、この数学がゼロ完(完答できた問題がゼロ)でも、単純な暗記が効きやすい英語や地歴や理科できちんと得点できていれば、合計で6割の合格最低点は十分に超えられる。
このような受験勉強は「メリハリが利いている」と言えば聞こえはいいが、「いかに手を抜いて東大入試をパスするか」に最大の重きをおいているとも言えるだろう。
まさに、東大に合格するためだけの、東大入試に特化した訓練だ。そのため、東大に受かった人が同年に滑り止めで受けた早稲田大学や慶應義塾大学には落ちていた——なんてことが往々にして起こる。
最短ルートには、「新しいもの」は落ちていない
さて、受験勉強を通して「要領のよさ」を身につけた東大生たちは、物事の全体像をいち早く把握し、要所を見抜くことに長けている。
そのため、勉強でも仕事でも運動でも、なんでも新しくはじめてみるとその成長は早く、すぐに人並みかそれ以上にはこなせるようになる。
しかし、ある一定のレベルからは、コンスタントに努力を積み重ねている人たちにはかなわない。
たかだか数年の受験勉強でクリアできる東大入試には抜群の効果を発揮した「要領のよさ」は、大学からのより専門的な学問や、社会に出てからの仕事や人間関係にはそうそう通用しないからだ。
要領型は、何事においてもせっかちに「最短ルート」を行こうとするが、近道ばかりを選んで歩くので基礎体力が身につかない。
体力がないから、ますます楽な道を探そうとする。そんな人間と、道なき道を自力で切り開いてきたものとの実力に歴然たる差が出ることは当たり前のことだ。
あらゆる物事には、無駄として切り捨てたところに、得てして思わぬ価値があるものだ。先人に開拓され、多くの人が通りたがる最短ルートには、「新しいもの」は落ちていない。
そもそも、横着者が浅薄な知識にもとづいて切り捨てたのは、本当に無駄なものだったのか——。
ビジネスの現場で企業から「思っていたよりも使えない」と言われる東大卒はこのタイプだろう。東大生のピンキリでいうところの「キリ」だ。
天才型・秀才型・要領型という東大生のタイプについて書いてきた。
ここでは分かりやすく単純化して三つのラベルを示したが、もちろん東大生だって生きた人間だから、その人格はさまざまな要素が複雑にからまりあって形成されている。
ただ、それらの要素の多寡によって、東大生の思考や行動の大まかな傾向を知ることはできる。このタイプは、東大生をよく理解するための指針の一つと捉えてもらえるといいだろう。