経営不振の責任は債権者にもあるわけだから、経営不振に陥った主体を救済するためには、まず債権者がそのコストを負担すべきだ。国が債務危機に陥ったギリシャやスペインの場合は投資家や納税者が、銀行が経営不安に直面したイタリアは投資家や預金者や相応のコストを負担しなければならない。こうした処理法を「ベイルイン」と呼ぶ。

ベイルインは公的資金の注入(ベイルアウト)が安直に行われ、モラルハザードが助長されないようにするために生まれた手法だ。一見、非常に説得力を持つ考え方であるベイルインであるが、これは火事が起きたとき、消防車を出動させるよりも自分たちで消火活動をしろと言っているようなものであり、消えるどころか広がるリスクが大きい。

ギリシャやスペインの財政危機の場合、EUが早期に巨額の金融支援を行っていれば事態の深刻化は免れたはずだ。しかしこのことは、EUが「ご法度」としてきた所得移転につながるため、実際に金融支援を行うまでにかなりの時間を要した。イタリアの金融不安の場合も、EUが預金者や投資家のコスト負担にこだわったため、事態が複雑化した。

危機対応は早期に、かつ大規模に行う方が、最終的な納税者の負担は軽いと言われる。しかしそれを阻むのは、納税者負担を回避しようと自己責任論を展開する民意であり、それを組まざるを得ない政治そのものだ。2010年代のEUの停滞は、まさにそうした自己責任論にとらわれ続けたEU自らが引き越した悲劇であったと言える。

立ちはだかる「共同富裕」の壁

本来、火事が起きた原因の究明は鎮火の後で行えば良い。何より、火事を消すことを最優先すべきだ。そうであるはずなのに、火事がなぜ起きたのかを究明しようとする。その結果、火事が燃え移って焦土が広がるばかりとなる。日本経済はバブル崩壊後に「失われた30年」を歩み続け、停滞を脱せないままとなっていることを思い返せばいい。

こうした日本の経験を、中国はよく研究していると言われる。権威主義体制である中国の場合、習近平国家主席の意思次第で、中国恒大集団に公的資金を注入することが可能なはずだ。そして同社の資金繰りを安定させ、債権者に相応の返済を行い、その上で最終的に同社の扱いを考えれば良い。数年前までなら、それは容易だったはずだ。

香港金鐘提督夏慤道
チャイナ・エバーグランデビル入り口(Wikimedia Commons)

事態が複雑化しているのは、習近平政権が「共同富裕」をキーワードに格差是正を政権運営の戦略目標に据えたことにある。中国恒大集団の債権者は、中国でも富裕層か大企業だ。中国恒大集団の資金繰りを支援することは、そうした富裕層を優遇することと同じ。税金で金持ちを救済するのか、という批判が展開されるかもしれない。

とはいえ中国恒大集団の経営が破たんすれば、投資家や銀行は多額の損失を被ることになる。消費や金融の面から、中国景気に強い下振れ圧力がかかる。そうなれば、習近平国家主席が注力する「共同富裕」など実現しようがない。多少の躊躇はあっても、中国恒大集団という「火事」を消すことを優先せざるを得ないのではないだろうか。