都会から田舎に移住するとき、どんな点に気をつけるべきか。小説家の樋口明雄さんは「私が移住した山梨の田舎は、三代住んでもよそ者扱いされるような排他的な土地だった。地元民と距離を縮めるため、とにかく挨拶と笑顔を絶やさず、根気よくコンタクトをとり続けた」という――。

※本稿は、樋口明雄『田舎暮らし毒本』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

日本の村
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徹底して内外を区別する山梨

山梨ではよそ者のことを“きたりもん”という。

よそから来た人間という意味だが、いかにも排他的な言葉だし、どうしても好きになれない。私自身は、それを地元の人から面と向かっていわれたことがない。しかし私の周囲ではそういい放たれたという知人が何人かいる。

何しろ、“三代住んでも、きたりもん”といわれるそうだ。

そこまで内外の区別が徹底されるということだろう。

では、山梨以外のよその土地はどうかというと、それぞれの土地で事情が違う。

たとえば富山県には釣りの師匠にあたる知人夫妻が住んでいて、彼らを頼ってよく長期滞在したものだが、あちらの人間はかなり印象が異なる。どこかのんびりしているのである。

車の運転ひとつ見ても、双方の違いは明らかだ。山梨のドライバーは“甲州ルール”あるいは“山梨ルール”という言葉があるように、身勝手な人間が多く、粗暴でせっかちだ。だから一般道を走っていても、しばしば後ろからあおられたりする。

もちろん富山にもよそ者をさす言葉があるが、あちらでは“旅の人”といわれる。そのほうが言葉が柔らかだし、親しみがこもっている気がする。いかにも相手を突き放したような“きたりもん”とは、あまりにニュアンスが違う。