極端な情報ばかり拡散される恐ろしさ
私が『年収90万円で東京ハッピーライフ』をそそのかす行為を危険視するのは、こうした「信者ビジネス」の常套手段を踏襲しているためである。大原扁理氏が個人的にこうした生活を選択することについては異論がないが、中田敦彦氏のように、インフルエンサーとして多くの人々を巻き込もうとする行為は大変危険なものであるし、あまりにも道徳に反する所業である。
実際に、動画内では先ほど私が指摘したようなリスクにはまったく触れず、むしろ「生活のために週5で働いている人」がまるで不正解であるかのようにシナリオを作り、貧困生活に誘導しようとしていた。
「『もっと楽をして生活したい』と思ったから、この動画にたどり着いたんでしょう?」や「嫌いなことをして死ぬな」と次から次へと多弁に、大げさな仕草で視聴者に語りかける中田氏のことを、私は心底「怖い」と思った。
その動画を見ている人々が「今の生活がつらいと感じて動画にたどり着いた」と「理解している」にもかかわらず、彼ら彼女らを自らの食いぶちとして、人を人とも思わず、利用してうまく口車に乗せて私腹を肥やそうという悪意そのものが、本当に恐ろしいのである。
もしも今の生活が苦しくて仕方がないのであれば、まずは休養し、面識のないインフルエンサーの言うことよりも、行政の窓口や福祉事務所など、公的な福祉に頼ってほしい。年収90万円は、国が定める生活保護受給資格の基準を大幅に下回っており、まともな生活はできない。
「今の生活がつらいと感じて動画にたどり着いた人」のことを本当に考えて発信をしているなら、こうした現実的な方法が提示されるはずである。
「年収90万円で東京ハッピーライフ」などという極端な情報ばかりが拡声器のように遠くまで届くのを黙って見過ごす社会ではなく、しっかりと否定される社会であってほしいと切に願っている。