▼植木理恵さんの分析

心理学者・臨床心理士 植木理恵●1975年大分県生まれ。東京大学教育心理学科卒業後、日本学術振興会にて特別研究員。「城戸奨励賞」「優秀論文賞」などを最年少受賞。著書に『シロクマのことだけは考えるな!』。

人はポジティブなときには物事を緻密に考えられません。研究者や作家、データ処理を行う人にネアカは少ないですが、それは彼らにとってはむしろローテンションなほうが仕事をしやすいからです。ウキウキしながら計算や執筆をしていると、逆にミスは増えます。

一方で、「いろんな情報を取りにいこう」「ダメもとで当たってみよう」という職種には、ポジティブな明るさが必要です。むしろちょっとバカになる、くらいの勢いがないと、新奇ネタを物量的に集めることはできません。

彼の場合、それを個人ベースでも実践しているところがさすがです。「1日3人と会う」「30分は一人で過ごす」は、ハイとローの絶妙なバランス感覚です。つねに変わり続けられる人というのは、このような根アカな部分、ポジティブな部分も持っているものです。

「人に期待しない」という独自の部下育成論もなかなかのものです。

突然ですが、なぜ細木数子さんや勝間和代さんには、あれほど信奉者が多いのでしょう。それは、日本人は圧倒的に≪M≫体質だからです。心理学的に、≪M≫は「自分でもこの道を進んでいいのかわからない」というような、アイデンティティが定まっていない人のことを指します。だから他人から「あなたは、こうよ!」と断言されると、「えっ」と動揺してしまう。

元木氏は、この圧倒的大多数の≪M≫に対して、効果的に≪S≫的ボスキャラを演じたということでしょう。

でもきっと部下たちも本気で「期待されていない」とは思っていなかったと思うんです。口ではああ言っても、心のどこかで「期待してくれている」。そんな二面性提示の断言こそが、≪M≫的素質をくすぐり、個性を伸ばしたのです。

※すべて雑誌掲載当時

(渡邊清一=撮影)