自民党総裁選は立候補者だけの戦いの場ではない。派閥に翻弄される若手議員の戦いの場でもある。前自民党議員で大正大学地域構想研究所准教授の大沼みずほ氏は「派閥幹部やベテラン政治家は、自分たちにとって有益な候補者を勝たせるため、表向きは、自主投票という看板を掲げても、派閥内の引き締めを強め、派閥というものの存在の大きさを改めて見せつめる総裁選となるだろう」という――。
同じ靴を履いた足元が並ぶ
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混迷の総裁選のウラ舞台でうごめいていること

自由民主党の総裁選が混戦模様となっている。

レースを見通す上で注目したいのは、自民党支持率が37%まで回復しており、最大野党の立憲民主党の5%よりはるかに高いということだ(朝日新聞世論調査:9月11、12日調査)。

8月下旬の横浜市長選で野党系候補が勝利し、「次の自民党総裁次第では、政権交代が起きる可能性もゼロではない」といった指摘はあるものの、世論調査の数字を見て、秋の衆議院選挙で、自民党は「大きくは負けないのではないか」という憶測も出始めた。大詰めを迎えた総裁選が今後どうなるのか。派閥の構図から読み解いてみよう。

1:宏池会と麻生派

総裁選で早いうちから立候補を表明していたのが岸田文雄元政調会長(64)だ。自民党内最古参の派閥・宏池会の長である。派閥のトップが総裁選に出ることもあり、派閥メンバーの46人からの支持は固い。

同派は、戦後の日本の成長を支えた池田勇人や大平正芳、宮澤喜一といった先人の首相たちを輩出しており、政策通が多い。強面政治家は少なく、ゆるやかな連帯感が特徴で、お公家集団などと揶揄やゆされることもあるが、保守本流は自分たちであり、日本の戦後を作ってきたという誇りを持つ。

一方、麻生派に所属する新型コロナウイルス感染症ワクチン接種推進担当大臣・規制改革担当相である河野太郎氏(58)は、今回、派閥の領袖である麻生太郎会長(80)の全面的な支持は受けられず、麻生派は河野氏と岸田氏の二人を支持するという方針を固めた。麻生派の中にも甘利氏を中心として、岸田氏を推す人が少なからず存在する。

麻生氏は“部下”の河野氏より岸田氏推し?

麻生派が河野氏支持で一本化できない理由には、麻生派自体がいわば宏池会の分派であるという事情も関わっている。麻生氏と岸田氏の父親は当選同期であり、もともと岸田氏と麻生氏は昔から関係が深い。麻生氏は当初、宏池会に所属していたが、河野氏の父親である河野洋平氏が宏池会を出た時に一緒に宏池会から出ているという経緯がある。

麻生氏は現在、副総理兼財務大臣だ。河野氏が総理総裁になれば、そのポストを外される可能性が高い。もし、岸田氏が総理総裁になればその座にとどまる可能性もある。そうした自身のポジショニングも影響しているだろう。

今、国民の中で高い知名度と人気度を誇るのは、河野氏だろう。それに注目しているのが、自民党議員のほぼ半分を占めている当選回数1~3回までの比較的若い世代だ。彼らにとって、河野氏の知名度と発信力は、衆議院選挙を目前に控えた中、選挙の顔としての期待値が高まっている。

そのため、河野氏支持をするのは麻生派議員だけでなく、他派閥にも少なくない。小泉進次郎氏も明確に河野氏支持を表明した。派閥横断的に若手に支持を広げていく一方で、党員票とともにベテランをはじめとする中堅以上の議員をどれだけまとめられるかが勝敗の鍵となる。

今回不出馬を決めた菅義偉首相は河野氏支持を明確にしている。表向きは自主投票としているガネーシャの会(菅首相に近い自民党の当選4回以下の無派閥有志)だが、数人を除き、河野支持でまとまっているようだ。