女子ゴルフの稲見萌寧選手が、東京五輪で日本ゴルフ界初の銀メダルを獲得した。『書斎のゴルフ』元編集長の本條強さんは「1年前まで普通の選手だったが、今年に入ってショットが正確無比になってブレイクした。そこには3つの理由がある」という――。
銀メダルを獲得した日本の稲見萌寧選手(左)と銅メダルを獲得したニュージーランドのリディア・コー選手(右)。東京五輪・ゴルフ女子最終ラウンド2位決定プレーオフにて=2021年8月7日、川越・霞ヶ関カンツリー倶楽部
写真=AFP/時事通信フォト
銀メダルを獲得した日本の稲見萌寧選手(左)と銅メダルを獲得したニュージーランドのリディア・コー選手(右)。東京五輪・ゴルフ女子最終ラウンド2位決定プレーオフにて=2021年8月7日、川越・霞ヶ関カンツリー倶楽部

1年前までは「普通の選手」だったのだが…

褐色に焼けた肌。真っ白な歯。大きな黒い瞳。鍛えられた肉体。抜群の健康美を誇る稲見萌寧が緑の舞台で躍動する。

鋭いショットでフェアウェイセンターに飛ばし、ピンをデッドに狙う。ショットの正確さは今や女子プロナンバーワン。その精度で至難のコースを次々に制していく。

「わたし、完璧主義者なんです。ショットは100%完璧でないと納得できない」

22歳になった稲見はそう言うが、4年前の18歳で受験した18年7月のプロテストは20位のぎりぎり通過。数少ない出場試合を粘り強くものにして、1年後の19年7月に初優勝を遂げる。しかし2勝目まではさらに1年以上かかり、ここまでは並みの選手だった。

ところが21年の今年、稲見は突然ブレイクする。3月に3勝目を挙げるや、4月に連続優勝を含む3勝を挙げ、5月、8月に勝利し、夏の終わりまでに6勝を挙げ、通算8勝。この間には7月の東京五輪の銀メダルがある。

この躍進の秘密はどこにあるのか?

“はざま世代”と呼ばれた高校時代

まずはジュニア時代を見てみよう。9歳からゴルフを始め、1カ月後にはプロになると宣言した稲見。それ以来、1日10時間以上という猛練習を重ねてきたが、その割には中学高校で大きなタイトルは皆無。高校2年の関東ジュニアでは、2日目を終えて1打差の2位だった稲見が最終日にスコアを伸ばせずに4位に終わり、クラブハウスで泣きじゃくっていたのを私は思い出す。

この年の日本ジュニアは12位タイ、高校3年の最後の夏の日本ジュニアは24位タイで終わっている。負けず嫌いの稲見にとって、思い出したくもない苦い高校時代だったろう。

稲見の1学年上はいわゆる黄金世代。畑岡奈紗、渋野日向子、勝みなみ、原英莉花、小祝さくらなど錚々たる選手たちがひしめき合う。稲見の1年下の学年はプラチナ世代やミレニアム世代と言われ、安田祐香、吉田優利、西村優菜、古江彩佳とこちらも煌めく選手たちが揃っている。

ところがその間の稲見ははざま世代と呼ばれ、稲見以外は鶴岡果恋くらい。上下の学年の圧倒的な強さに挟まれ、高校時代は力を発揮できなかったのかもしれない。それはプロテストでも同様だったし、翌年の試合出場を決めるファイナルQTでは103位と振るわなかった。この時点までで誰が今の稲見を予想していただろう。