イタリアのファッションECサイト「YOOX(ユークス)」は、ハイブランドを中心に展開しており、中には100万円クラスの商品もある。だが、サイトはチープで、高級品を扱っているようには見えない。なぜこのような仕様なのか。「Screenless Media Lab.」による連載「アフター・プラットフォーム」。第5回は「高級ブランドがサイトの作り込みをあきらめた事情」――。(第5回)

100万円を超える商品もあるのに「不親切でチープ」

海外に本店を持ち、富裕層向けにグローバルに商品展開する通販サイトがある。例えばイタリアの「YOOX(ユークス)」は、高いものでは100万円クラスの高額商品がふつうにあり、商品数も数万点を扱う世界的なハイブランド通販サイトだ。グッチ(GUCCI)やプラダ(PRADA)、ロエベ(LOEWE)といった有名ブランドがそろい、商品数も多く、日本からオーダーしても数日で商品が届く。2000年の創業以来YOOXは成長を続けており、2017年時点で売上高は2700億円を超えている。

他にも、エシカル&サステナブルに力を入れている「Farfetch(ファーフェッチ)」など、同様のサイトもいくつか存在しているが、いずれもサイトデザインは概して出来がいいとは感じられない。また、検索も使い勝手が悪く、使われている写真のクオリティーも高いとは言えない。

日本人が見慣れたユニクロやゾゾタウンのような、きめ細やかに作り込まれたファッションサイトと比べると、「チープなつくりだな」という印象を受けてしまう。しかしこうしたサイトは続々と数を増やしており、もはや高額ファッションECについてデファクトとなりつつある勢いだ。

ハイブランドの販売店ではブランドイメージを高めるために、店舗の内外装や商品のショーアップに凝り、見た目を豪華につくっている。同じ傾向はネットでも初期には見られたが、今ではそうしたマーケティングはほとんど見かけなくなった。

ではなぜ、買い手はチープで使い勝手もいいとは言えないサイトで高額商品を購入するのだろうか。

サイトで商品価値をアピールする必要がない

伝統的なマーケティング論では、「集客し、体験させ、価値理解をさせて、購入契機を与えるというプロセスを踏まなければ、商品をユーザーに買わせることはできない」というのが通説となっている。

同種の製品に比べて際立って価格が高い商品は、その価格で購入してもらうために、それなりの「価値付け」を必要としている。言い換えれば、商品の「価値を理解」させないかぎり、ブランド品は売れない。

しかし上記のようなハイブランド販売サイトでは、セール等で購入契機を与えることはあっても、サイトユーザーに商品の価値を理解させるための努力は何もしていない。

ここから推察されるのは「ハイブランド販売サイトの利用者は、自分が購入する商品の価値をあらかじめ知っている」ということだ。ブランドの価値理解が済んでいるのであれば、通販サイトはそれぞれの商品価値を訴求する必要はなく、サイトは純粋に物流機能に徹していればよいからだ。