自分が休むことを人材育成の機会に
私は精神科医でインフルエンザの患者さんを診療することはありませんが、うつ病の方でも「会社を休むわけにはいかない」「今休めば取り返しのつかないことになる」という方は少なくないのです。
しかし、体調が悪くて普段の3割の力しか出せない状態でダラダラ働き続けるよりも、きちんと休養を取って体調を回復させ、10割の力を発揮するほうが長期的にはいい成果を挙げられるはずです。そこで「休む」と言い出せない人には、「医者から言われたから」と医者を悪者にしてしまうように勧めています。
友人の同僚で、体調が悪くて入院しているのに、病院から会社に通っている人がいました。「今休んだら職場に居場所がなくなる」と心配していたそうです。でも、そんな話を聞いて同僚たちは気分がいいはずがありません。「俺たちを信用できないから、仕事を任せられないのでは」と思うことだってあるでしょう。
また、責任感が強いことは立派ですが、ヒロイックな思い込みは誰のためにもならないことを覚えていてください。「俺がいないと取り返しがつかないことになる」といっても、元気になればいくらでも埋め合わせはできるはず。むしろ無理して過労死すれば、それこそ取り返しはつかないし、会社や家族に迷惑をかけてしまいます。
10年の夏、日本ハムファイターズは主力選手をインフルエンザで欠き、ファンの私はハラハラしながら応援していました。しかし、穴を埋めた若手選手たちが奮起し、最終的にはリーグ優勝を果たすことができました。結果的にチーム力がアップしたように思います。
あなたは会社の稼ぎ頭で、4番打者のような存在なのかもしれません。それなのにインフルエンザにかかってしまったら、「休むことで部下にチャンスを与え、いい人材育成の機会にしよう」と考えてみてはいかがでしょう。
「今日は休めません。大事な仕事がありますから」という仕事大好き人間を見ていると、「本当に仕事が好きなのか」と疑問に思います。仕事を免罪符にして、ほかのことに対し思考停止状態になっているような気がするからです。仕事のために仕事をするようなことはやめ、何のために仕事をしているのか考えましょう。きっと家族の姿が見えてくるはずです。
※すべて雑誌掲載当時