ミルグラムの電気ショックを使った実験

ラーナーらは、社会心理学史上最も有名なスタンレー・ミルグラムの(偽)電気ショックを使った実験を応用した研究結果を報告しています。実験室には実験を指揮する研究者一人、先生役の一般人一人、生徒役の一般人一人がおり、記憶の研究と称して先生役の人が問題を出し、生徒役が答えます。先生役は生徒役が間違えるたびにより強い電気ショックを与えるよう研究者から指示されます。いよいよ実験が始まると生徒役はしばしば答えを間違え、電気ショックにもだえ苦しむことになります。

指先から電気を出して攻撃する手と守る手
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実は電気ショック発生器はそれらしい偽物で、本当は生徒役はまったくショックを受けていないのですが、たいへん上手に演技をしているのです。何も知らない先生役は、研究者にどんどん電気ショックの強度を上げるよう指示されるのですが、さて、どこまでそれに従って生徒役を苦しめ続けるのでしょうか。これを調べるのがミルグラムの実験でした(実験では、先生役はきわめて強いストレスを感じながら、非常に強いレベルの電気ショックを与え続けることが明らかにされました)。

さて、ラーナーらの実験ではこれにひと手間加え、電気ショックが偽であることを知らずにその様子を観察する観察者という役割を設けたのです。そして、観察者が、苦しむ生徒役をどのような人間とみなすかを調べました。その結果は次のようなものでした。

観察者は、「電気ショックを受けている生徒役が報酬をもらって実験に参加している」と伝えられた場合は、その人を悪く思うことはありませんでした。ところが、そのような情報が伝えられていない場合、つまり、生徒役には電気ショックを受ける外的な理由がみあたらない場合、生徒役をさげすむ方向に評価が変わりました。「理由もなくひどい目にあっている人がいる」という認識は公正世界信念を脅かしますので、「ひどい人間だからひどい目にあっているんだ」という方向に評価を変えるわけです。まさにひどい話ですね。

このようにして、一見、理不尽な扱いを受けている医療関係者も何らかの自業自得に陥る理由があるはずだ、感染者やその家族はそのような社会的制裁を受けて当然だ、と差別や偏見が正当化されやすくなります。公正世界信念は理不尽に苦しい状況に置かれている人への非難をもたらすことから、公正世界誤謬と呼ばれることもあります。

人は仮説が「間違っているかもしれない」という情報を選ぼうとしない

問2は認知心理学でたいへん有名なウェイソンの4枚カード問題と呼ばれるものです。どのカードを選びましたか? 正解は「2」と「縦縞」カードの二枚です。ところが、多くの人は「2」と「横縞」という組合せを答えます。

なぜ「2」と「縦縞」が正解なのかを解説しましょう。まず、カード選択で重要なのは仮説を棄却できる選択かどうかです。

偶数である「2」のカードを裏返して横縞なら仮説は生き残りますが、縦縞ならその時点で仮説は棄却されます。つまり、このカードを裏返すことは、仮説の正否の確認になります。ですので「2」を裏返すことは正解です。

ところが、もうひとつ回答されやすい「横縞」のカードをひっくり返してみても、仮説は「偶数の裏が横縞」ですので、もし奇数であっても仮説を棄却することにはなりません。奇数の裏側がどんな模様であろうが、仮説とは関係ないのです。

一方、縦縞のカードをひっくり返して偶数が書かれていれば、それによって「偶数の裏は横縞」という仮説は棄却されます。ですので、このカードをひっくり返すことで仮説を棄却できる可能性がありますので正解です。

というわけで、正解は「2」と「縦縞」となります。にもかかわらず、なぜ人は「2」と「横縞」カードを選びやすいのでしょう。それは、人が仮説(例えば、感染者は感染しても仕方がない放埒ほうらつな生活をしている)が正しいかどうかを判断しようとするとき、それが正しいという情報を積極的に手に入れようとしがちで、本当に必要な「それが間違っているかもしれない」という情報を選ぼうとしないからです。

このため、ある感染者が「きちんと感染防止策をとっていたし、経路不明で本人もなぜ感染したかわからない」という情報に接する機会があってもそれはスルーして、「宴会で大騒ぎし、深夜まで何軒もハシゴした」という情報に出会うと、「ほらね、やっぱり」と元々の自分の考えを強めることになるのです。