新型コロナウイルスと懸命に戦う医療従事者が誹謗中傷を受ける事例が相次いでいる。同志社大学の中谷内一也教授は「新型コロナ禍で思うようにいかない苛立ちやフラストレーションが、問題解決とはならない対象集団ないしは個人への攻撃として置き換えられている」という――。
※本稿は、中谷内一也『リスク心理学 危機対応から心の本質を理解する』(ちくまプリマ―新書)の一部を再編集したものです。
【問1】新型コロナ禍で最も苦しんだのは感染患者であり、最も奮闘したのは現場の医師、看護師、保健師などをはじめとする医療従事者です。多くのクラスターが発生した施設で働く福祉関係者も感染リスクに曝されながら仕事をしていました。
ところが、そういった人たちが偏見や誹謗中傷にさらされました。なぜ、賞賛されたり、心配されたりすべき人たちが、偏見や誹謗中傷の対象になるのでしょうか?
ところが、そういった人たちが偏見や誹謗中傷にさらされました。なぜ、賞賛されたり、心配されたりすべき人たちが、偏見や誹謗中傷の対象になるのでしょうか?
【問2】図表1をご覧下さい。4枚のカードの表面にはかならず数字が書かれていて、裏面は縦縞か横縞です。では、「表面に偶数の数字が書かれていれば、その裏面は横縞である」という仮説が正しいかどうかを確かめるためには4枚のうちどのカードをひっくり返せば良いでしょうか。ひっくり返す必要のあるカードのみ選んで下さい。
医療従事者への中傷で困るのは一般市民
まず、新型コロナ禍における医療従事者や感染患者への偏見や誹謗中傷についてみていきましょう。新型コロナの感染患者を受け入れて治療する病院で働く人が、保育所から子供の通園を拒否される事例が多くありました。休日に子供を連れて公園に遊びに行くと、他の子供の保護者から「ここには来ないで欲しい」といわれることもあったようです。医療関係者であるというだけで、ふだん通っている飲食店から入店を断られたり、よりひどい場合には「おまえたちがウイルスをまき散らしている!」と罵倒されるというケースも報告されています。
いずれも理不尽なことです。そのような扱いを受けた人が不快な思いをするという感情的な問題だけでなく、例えば、子供の預かり先から拒否されると、その看護師は日中、自分の子供の面倒をみなくてはならなくなりますから、病院での仕事には行けなくなります。それでなくても、感染リスクに曝され、家族にうつさないかと不安を抱きながら、激務に従事していました。そうすると離職を選択することになり、そうすると病院に残っている他のスタッフの負担が増え、そうすると離職する人がさらに増え、ますます病院の人員は逼迫し……と悪循環が起こります。
偏見や差別により休診という事態になると誰が困るでしょう? 患者です。新型コロナであろうが、そうではない一般の病気であろうが、医療従事者が不足して十分な診察・治療を受けられなくなると、それまでであれば助かった命が助からなくなったり、重篤にならずに済んだはずの病気が重症化するなど、デメリットを被るのは一般市民自身ということになります。