ただの出来事に何者かの意図を感じてしまう「エージェント性」

もう一度、あなたは狩猟採集時代における原始人で、目の前の草むらがガサガサゆれたというシナリオを考えてみよう。

あなたは狩猟採集時代の原始人で、100万年前のアフリカのサバンナを歩いているとする。そこで、目の間の草むらの中でガサガサという音が急に聞こえる。あなたはそこで瞬間的に考える。

草むらのなかにいるのは、危険な肉食動物だろうか。あるいはただ単に風が吹いただけだろうか。このとき、草むらの音が肉食動物だと考えて、実際はただの風だったら、あなたの予想は間違っていてタイプIエラー(偽陽性)であった。

もしそうであれば、あなたは殺されることなく、ただ単に逃げることのコストがかかるだけである。そして逆に、あなたは目の前の草むらから聞こえたガサガサという音を、単に風が吹いて草むらが揺れたことで発せられた音だと判断したが、実際には、その草むらに危険な肉食動物がいた場合は、タイプIIエラー(偽陰性)のシナリオであった。

この時は言うまでもなく、さらには間違いなくあなたはライオンの餌食になる。実はこうしたシナリオを考えるとき、脳では草むらの音とライオンの存在の関係性についてのパターン性のみならず、もう一つのことに無意識のうちに注意を払うようになっている。それが、エージェント性である。

雄ライオン
写真=iStock.com/SeppFriedhuber
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エージェント性とは、目の前で起きていることが、意図をもった生き物によって引き起こされていると思いこむようなバイアスのことを指す。すなわち、我々は、特に意味のないランダムな現象にたいして、意図があると思い込んでしまうような認知の歪みを有しているのである。

エージェント性の典型例である「知性ある宇宙人」

エージェント性は広義にはパターン性から派生するバイアスともいえるが、ここで重要なことは、人間には、何かランダムな現象をみたとき、そこに意図を無理やり、自動的に見いだそうとする傾向があるということである。

たとえば、このケースでいえば、風は生き物ではないが、ライオンという危険な捕食者は意図をもって動きまわる動物である。エージェント性とはパターンに意味や意図、主体性を持たせることを意味する。

魂、幽霊、神、悪霊、天使、宇宙人、インテリジェント・デザイン、政府の陰謀、その他、我々の生活を支配していると信じられている様々な見えない存在に意図を見いだしてしまうバイアスが、エージェント性である。

このエージェント性がアニミズムや宗教、その他様々な非合理的なイデオロギーの根源にある。宇宙人はなぜか人類よりも進んでいて高潔で、我々を救うために地球に来るという話や、人間は神が創造したものだという発想がこれらの典型例であろう。