トランプを「光の戦士」だと信じた支持者たち

実は陰謀論を信じたいと思う人間の本性は、そのほかのオカルトや幻想にしばしば魅了される我々のホモサピエンスとして備えた心の仕組みと共通している。今年の初頭に流行った陰謀論はトランプ陰謀論であり、これによって情緒的保守が既に選挙で負けているトランプ大統領がなぜかまだ負けていないと主張し続けた。

ドナルド・トランプの支持者
写真=iStock.com/ginosphotos
※写真はイメージです

彼らは、トランプ元大統領はまだアメリカ大統領選で負けておらず、いつか表舞台に舞い戻ってくる「光の戦士」だと思っていたのである。あるいは、共産主義国は地上の楽園で、そこに行けば資本主義世界のなかにみられる、様々な苦しみから逃れられると思っていた者もいる。

拉致被害者なんていないと信じられていた頃、日本でも、そうした人物は北朝鮮に自分から渡っていったが、その圧政に気づいたときには、時すでにおそしであった。

「Xファイル」の主人公フォックス・モルダーのようにUFOの存在を信じたい人もいる。医療行為でいえば、癌が治せると信じて高額のお金をオカルト療法に投じる人もいる。しかしいったいなぜ、我々はこうした非科学的な信念体系を信じてしまうのだろうか。そこには何か科学的な理由やメカニズムがあるのだろうか。

陰謀論的な発想を生み出す「2つのパターン性」

それは、我々の脳の中には非科学的な発想を無意識のうちに信じてしまう仕組みがあるからである。本質的に私たちはパターンを探す動物である。我々は脳のなかで自動的に、AとB、BとCをつなげて考えるのであり、こうした仕組みは関連付け学習(association learning)と呼ばれるものである。

つまり、私たちは自動的に物事のなかにパターンや関係を見いだすのであり、こうした迷信を信じてしまう背後にある一つの原理をパターン性(patternicity)という。パターン性とは、意味のあるなしにかかわらず、与えられた情報から何らかのパターンを見つけだそうとする傾向のことを指す。

「パターン性」がはたらくときに2種類の間違いが想定される。一つ目のミスは偽陽性(ここではタイプIエラーと呼ぶ)である。これは、パターンが存在しないのに存在すると信じこむ事である。もう一つのミスは偽陰性(ここではタイプIIエラーと呼ぶ)である。こちらは、パターンが存在するのに存在しないと信じこむことを指す。

ここで以下のシナリオを考えてみよう。あなたは狩猟採集時代の原始人で、100万年前のアフリカのサバンナを歩いているとする。そこで、目の間の草むらの中でガサガサという音が急に聞こえる。あなたはそこで瞬間的に考える。

草むらのなかにいるのは、危険な肉食動物だろうか。あるいはただ単に風が吹いただけだろか。言うまでもなく、これらのいずれかを判断して、逃げるかとどまるかを決めることは、狩猟採集時代のサバンナで暮らすあなたの人生にとって決定的に重要な決断である。