2021年1月、社員6人の出版社「サンガ」が倒産した。サンガの社員だった五十嵐幸司さん(39)は、突然失職し、求職活動を強いられた。五十嵐さんは「サンガではアルバイトから社員に転換したので、就職活動は初体験だった。書類選考も含めて80社以上から不採用とされたときは『あなたはダメ人間です』と言われている気がした」という――。
「ごめんね、今日でサンガやめます」
2021年1月27日、コロナ禍でリモートワークになっていたため、私はいつも通りZoomを立ち上げ、会社の朝礼に臨んだ。画面の向こうで社長が泣いている。
「ごめんね。今日でサンガをやめます」
すると弁護士が後ろから現れ、淡々と状況説明を始めた。どうやら勤務先の出版社サンガは破産手続きに入り、私たち社員は解雇されたようだ。裁判所に破産申請届けを提出する17時まで「仕事はしてはいけないし、外部に漏らしてもいけない」とのこと。理解が追いつかない。春に刊行予定の担当書籍も宙に浮いてしまった。
サンガは日本では珍しい(スリランカ、タイ、ミャンマーなど東南アジアで盛んな)上座部仏教の本を中心とした出版社で、2001年島影透氏によって創業された。かつて東北一といわれた氷菓メーカー「しまかげ」の社長から、投資家を経て、出版社を立上げた。映画『男はつらいよ』の主人公・寅さんを地でいくようなキャラクターだ。
2020年時点、社員数6名、年間新刊40点、売上高約1億円。『怒らないこと』が累計30万部売れたり、最近は仏教瞑想をルーツとしたマインドフルネスがビジネス・医療分野でも注目されたり、わずか数名の小さい出版社ながら露出は増えていった。
ところが、そんな中、2020年7月、創業代表・島影がZoom会議中に突然意識を失い、救急搬送され、翌日に息を引き取った。奥様が社長を引き継いで半年後の事業停止だった。「(会社をやめるなら)早く教えて」と言いたかった。
夫のサポートという立場から一変し、多額の借金と会社経営が彼女に覆いかぶさったのだ。島影が生きていれば、きっとサンガは立ち止まれなかっただろう。自己破産という決断には彼女の強さを感じた。