合格率20%の難関に挑む80歳

千福さんは聴覚障害がある人のケアをきっかけに、手話も学び始める。挨拶だけでも喜ばれたのが嬉しくて、手話教室に通い続け、今年は手話技能検定3級の試験に挑戦するそうだ。

今では手話講師として講習を開くこともある。
今では手話講師として講習を開くこともある。(写真提供=プラスワンケアサポート)

さらに80歳にして挑戦したのが「介護支援専門員(ケアマネジャー)」の試験。合格率は約20%という狭き門である。さぞ熱い決意があったのだろうと思いきや……。

「私ももう80歳になるんやし、傘寿の記念に受けてみようかなと思って」と千福さん。

朗らかな返事にちょっと拍子抜けするが、それも思わぬ成りゆきだったらしい。もともと娘がケアマネジャーの資格を取っており、問題集などを段ボールに詰めて送ってきた。「お母ちゃんも認知症になると困るから、これ見て、ケアマネ受けたらどう?」と。そのときは押し入れにしまい込んでいたが、80歳の誕生日を前に受験を思い立ったという。

試験会場の雰囲気が好き

そうと決めたら、フットワークが軽い千福さん。さっそく受験の申し込みをすると、ひたすら「過去問」三昧の日々を送る。介護保険制度や法律などの専門知識には頭を抱えたが、試験当日はやはり楽しかったという。

「始まる前はみんな問題集を見ていて、世の中にはこんなに一生懸命やってはる人がおるんやと思う。あの試験会場の雰囲気がとても好きなんです」

千福さんは難関のケアマネジャーの試験にも一発で合格。だが、そこから半年ほど続く研修がもっと大変だったと苦笑する。数千人集まる会場で講座が開かれ、グループ別の実務研修に入る。ケアマネジメントに必要な知識や技能を習得する研修だ。当日は資料をリュックとスーツケースに入れて、朝早い満員電車で会場へ。細かな記述作業のためにパソコンも必死で覚えた。

「そこでまたいろんな人と一緒になり、違う人生も見られる。家でじっとしてテレビを観ているよりもいいかなと(笑)」