7月16日、宮内庁が収蔵する絵画4件と書跡1件が国宝に指定されることがわかった。歴史評論家の香原斗志さんは「これまで宮内庁は管轄する文化財や歴史遺産の文化財指定を拒んできた。今回の対応は異例だが、京都御所や桂離宮などの処遇は決まっていない。宮内庁の縄張り意識が文化財を危険にさらしている」という――。
「唐獅子図屏風」を鑑賞される高円宮妃久子さま=2019年5月21日、東京都台東区の東京国立博物館[代表撮影]
写真=時事通信フォト
「唐獅子図屏風」を鑑賞される高円宮妃久子さま=2019年5月21日、東京都台東区の東京国立博物館[代表撮影]

国宝級なのに重文でもなかった名画

文化審議会が、皇居東御苑にある三の丸尚蔵館が収蔵する絵画4件と書跡1件を国宝に指定するように文部科学大臣に答申したという報道が、7月16日に流れた。

その絵というのは、桃山時代を代表する画家、狩野永徳の代表作「唐獅子図屏風」や、鎌倉時代の元寇を描いた「蒙古襲来絵詞」など、歴史の教科書でもおなじみで、以前から第一級というお墨付きを得ていた作品だった。

意外なことに、これまでは重要文化財(重文)にさえ指定されていなかった。文化財保護法では、重要文化財のうち「世界文化の見地から価値の高いもので類いない国民の宝」が国宝に指定される。ところが、このたび国宝に指定される5件は、いずれも重文を飛び越え、いきなり国宝になるのだ。

暗黙のうちに文化財保護法の対象外に

急遽、出世を遂げることになった5件について、「三の丸尚蔵館の収蔵品での国宝指定は初めて」と報じられた。

事実、同館の収蔵品は9682点もあるのに、これまで1点も国宝どころか重文にも指定されていなかった。価値がなかったからではない。宮内庁の有識者懇談会が全収蔵品を精査したら、そのうち2484点は「国宝、重要文化財の候補になるレベルの質をもっているもの」などが該当する、Aクラスの優品に分類されている。

それなのに、国宝はおろか重文でさえなかったのは、三の丸尚蔵館が宮内庁の管轄下にあるからなのである。