「スコープクローズ」と呼ばれる米国での規制

政府の判断の甘さも、失敗の原因となった。日本の「自動車依存」を変えるという国家レベルの目標があったにもかかわらず、1社の民間企業に膨大な投資が必要となる民間旅客機開発を担わせてしまった。

米国ではダグラス社がボーイングに吸収されたほか、ロッキードも民間機から早々に撤退。欧州でも英BACや仏シュド・アビアシオンなどが共同で「コンコルド」の開発を手掛けたが、騒音や低い採算性、死傷事故もあり2003年に運航を開始してから30年ももたずに製造が打ち切られるなど、民間航空機開発は非常に難しいプロジェクトだ。

パリCDG空港に観光用として展示されているコンコルド(2010年3月)
写真=iStock.com/Senohrabek
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リスクに対する見通しの甘さはほかにもある。その最たる例が「スコープクローズ」と呼ばれる米国での規制を巡る問題だ。

5000億円もの債務超過を生んだ、あまりに楽観的な見通し

スコープクローズとは米国の航空会社とパイロットとの間の労使協定で、地方路線で飛ばせる機体サイズを制限する取り決めだ。スペースジェットのような小型機を運航する格安航空会社(LCC)などが無制限に旅客機を飛ばすと、大手航空会社のパイロットの仕事が奪われるため、座席数を76席以下に抑えるというものだ。

当初、スペースジェットが開発していたのは座席数90席の「M90」。仮に型式証明が取れても、最大の需要地である米国では飛ばせない。国交省も三菱重工もスコープクローズの存在は知っていたが、「緩和される方向だ」との予測を立てていた。しかし、一向に緩和されることはなく、設計変更に追い込まれた。

初めて尽くしの型式証明、スコープクローズに対する認識の甘さなど、開発にあたって、三菱重工も監督する国交省もあまりにも楽観的でずさんな見通しの下で、開発に踏み切ったことが三菱航空機に5000億円もの債務超過を残す失態を生んだ。