考える力を身につけるにはどうすればいいのか。『半歩先を読む思考法』(新潮社)を出した筑波大学准教授の落合陽一さんは「上質な情報をインプットし続けることだ。その道の専門家から直に話を聞く『耳学問』が一番良い」という――。(前編/全2回)
落合陽一さん近影
写真=宮﨑健太郎撮影
落合陽一さん

「耳学問」のススメ

――新刊『半歩先を読む思考法』(新潮社)には、2020年4月のはじめての緊急事態宣言中に書かれた、コロナ禍の先を見通したような文章も収録されています。落合さんが未来について考えたり、判断したりする際に、大事にしている情報は何ですか。

本来は「聞きかじった知識」という意味で、あまり褒められた表現ではないのですが、ぼくはよく「耳学問」っていう言い方をしていて、何かを専門でやっている人から直接聞いたことを重視しています。もちろん文献や論文も調べますが、それらを書いてる人ややってる人に直接質問するのが一番良い情報の入手法だと思っています。

たとえば、大学と研究費の話とかだったら大臣と話したり、大学発ベンチャーの人と語り合ったり、具体的には、研究所の話だったら京大の山中(伸弥)先生に聞いてみるとか、それぞれの分野に詳しい人に会ったときに直接聞くっていうのを意識していますね。

――2017年に始まったNewsPicksのライブ動画番組「WEELKY OCHIAI」でも、毎週さまざまな分野の専門家の方々と会われています。

ぼくは、メディアに出ること自体にはそんなにメリットを感じていないんですけど、番組のゲストとしてお呼びして、面白い人やこちらに情報をインプットさせてもらえる人に会える、という意味ではメリットを感じています。

自分の日常ではなかなか会えない人と直接話をするのは、本当に上質なインプットになるので。

何かを知りたいと思ったときに、その分野の本を買ってきて読むより、その業界の人と友達になったほうが早い。どんなに詳しいビジネス書を読んでも、当事者である経営者や起業家からの「耳学問」にはかないません。本人に質問もできますから。

その道の人に直に会って話すメリット

――この本の中にも、狂言師の野村萬斎さんや、音楽家のケンモチヒデフミさん、柔道家の羽賀龍之介さんなど、さまざまなジャンルの方とのエピソードが出てきます。

この前は建築家の坂茂さんに会いました。坂さんは、阪神淡路大震災や東日本大震災の時に、再生紙の紙管で被災者のための建築を建てたことでも有名な方なんですけど、そういう震災の時に、どんなふうに考えて建築するのか聞いたら、「ゴミが出ないようにする」って言われたんです。

さらに「移築しやすくて、でも10年くらい使える構造になっているようなものを建てる」って。使い捨てじゃない。ぼくは、紙と言われたときに衛生面を考えて、捨てやすくリサイクルしやすいものを作るのかと思っていたから、その逆の考え方が必要なんだって知ることができました。