人は何をきっかけに違法薬物の使用を続けるようになるのか。龍谷大学嘱託研究員の廣末登さんは「多くのきっかけは誰もが経験する日常のストレス。つまり、どんな人でも、何らかの薬物に逃避し、依存する可能性がある」という――。
壁に手を当て苦しむ男性
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薬物乱用は累犯者が多い

前編「『お土産品を1万円分買うのがコツ』元ヤクザの運び屋が明かす"覚醒剤密輸"の手口」では、覚醒剤取引のリアルをお伝えした。今回は、覚醒剤を購入して使用している人は、なぜそれに手を出し、使用し続けたのか。覚醒剤乱用者の肉声をお伝えする。

薬物乱用は、本人が被害を受けるものであり、被害者なき犯罪ともいわれる。したがって「誰にも迷惑はかけていない」という意識から使用者本人に反省の色が無く、累犯者が多いという特徴がある。

薬物と一言に言っても、乱用される種類はさまざまである。例えば、覚醒剤、ヘロイン、モルヒネ、LSD、コカイン、大麻、脱法ドラッグ、シンナー、眠剤(睡眠薬)を含む一般処方薬等がある。

これらの薬物を摂取すると、心理的・生理的な快楽を一時的に得られるが、薬物を習慣的に摂取する「乱用」は、身体的・人格的な異常を引き起こし、日常生活の崩壊につながる。その結果、薬物の乱用は、個人的な害悪にとどまらず、社会全体の退廃につながるため、多くの国が法律によって使用や譲渡、売買を禁止している。

薬物犯罪は「接触」「使用」「常用=乱用」「密売」という深化のプロセスをとるが、「常用」の段階にとどまる者と、この段階を経ずに「密売」の段階に移行する者に分かれる。前者は中毒者として被害者になり、後者は犯罪組織の末端に組み込まれて加害者となる。ちなみに、薬物犯罪の被害者となる人は、心理的・身体的な不全感を持ち、内向的で意志が弱く、自己否定感や他人への依存・同調傾向が強いタイプといわれる(細江達郎『犯罪心理学』ナツメ社 2001年)。

これから紹介するのは、さまざまな理由から覚醒剤の乱用に至った人たちの声である。その理由は、われわれ誰もが日常で経験するストレスであることに注意されたい。つまり、われわれは、機会があれば、誰しも何らかの薬物に逃避し、依存する可能性があるのだ。